去年も担任は孝橋先生だったけど、そんなに話す機会がなかった。
 印象に残っているのは今年の一月に退部届と、新たな入部届を貰いに行ったときくらいだろうか。

「きょうもバイト?」
「そ、五時から」
「夏休み前だからか、下校時間早いよね。一度家に帰るの?」
「あんな家、寝るときにしか帰らねえよ」

 嫌そうに顔をゆがめた塩尾瀬に、あたしはお母さんから言われた引っ越しの話をするべきか悩んだ。

「…あのさ、夏休みに」

 意を決して言ってみようと思ったけど、塩尾瀬の顔を見てしまったら無理だった。

「勉強、教えてほしくて」
「いいぜ、テストの出来はどうだった?」
「……最悪かも」
「おい、もう高校二年だぜ。いままでどうやって乗り切ってたんだよ」