名前だけ名乗って、短く挨拶を終えた彼は「それだけ?」と驚く先生に視線を向けた。
 先生は確か180センチで背が高いんだと自慢してたけど、それよりも高いなんて。

「席」
「あ、ああ、と塩尾瀬の席は縹の後ろだ」
「はなだ?」
「俺~」

 挙手をした周に塩尾瀬は頷いて、さっさと席に着いた。
 すごい。座っても周より頭が飛び出ている。誰よりもまっすぐに伸びた背中も綺麗。
 クラスの子の視線を一身に浴びても、ちっとも気にした様子はない。

「きょうの日直誰だ?」
「一花でしょ」

 友梨の言葉にそうだったかと思い出しながら手を挙げると、先生は顎を引いた。

「学校案内してやれ」
「え」
「昼休みとかでいい、塩尾瀬もそれでいいか?」

 あたしを見た塩尾瀬が小さく頷いたので、ちょっとだけドキドキした。
 友梨はうっすらと血色がよくなったあたしの頬を見て「惚れたの?」と茶化してきた。
 違うよ、と言いながら塩尾瀬を盗み見る。あの瞳に射抜かれたとき、あたしはなぜドキドキしたんだろう。そんな疑問を友梨に話せるはずがなかった。