お母さんの言ってる意味がわからなくて、あたしは自分の震える両手を握りしめる。

「この町に戻ってきたときに、また十静に縋ろうとしてることに気付いた。十静から一花と周静くんの話を聞いて、自分と同じようになってるってわかった途端、怖くなったの」

 その通りだった。あたしはいつも周に縋って、判断を委ねてる…。

「…一花、ここから離れたほうがいいのよ」

 周に押し倒されて、いままで知らなかった好きという言葉をぶつけられて怖くなった。

―周の傍にいたって…いいことなんてない。わかってる、そんなことは…。

「夏休みが終わったら引っ越しましょう。…お母さんのことを恨んでもいいから、お願い。これ以上はもう待てないのよ」

 おばあちゃんがあたしを抱きしめると、ずっと我慢していた涙が溢れた。

「…一花、お母さんも頑張るわ。もう二度と子どもを置いて仕事に逃げたりしないから…」

 お母さんもあたしの肩に触れると、ぎこちなく身を寄せた。
 雨はいつの間にか上がり、蒸し暑い夜が顔を見せていた―。