「…おばあちゃん、あたし我儘でごめんね」
「我儘じゃないわ、ほんの少しも」

 お風呂に入って、夜ご飯を食べ終えても気分が晴れないままだ。
 目の前でお酒を飲まずにあたしの様子を窺うお母さんと目が合う。
 お母さんはあたしがいじめられていると知って、ごめんね、と言ったのを思い出した。

「…あたし」

 いつもなら「もう寝るね」と逃げるように部屋に向かっていたはずだ。

「あたし、この町にいたいけど、おばあちゃんを困らせたくない…」
「一花ちゃん…」

 困惑したような、何か言おうとしているおばあちゃんはそれ以上言葉にしなかった。
 あたしは耳が痛くなるほどの沈黙に耐え切れず、瞼の裏に金の希望を思い浮かべた。

「…お母さん気付いたの」

 テレビをつけていない静かな部屋にお母さんの声が響いた。

「十静の言葉を基準にして何でも考えてたって」
「え…、どういう、意味?」
「何でもかんでも困ったら十静を頼ればいいと思ってた。一花のお父さんと出会って、結婚するときも十静に判断を委ねた。その異常さを、貴方のお父さんは危惧(きぐ)していた…」