あたしはなぜか塩尾瀬のことが頭に浮かんで、涙が零れ落ちた。
 どうして周を拒もうとするときに塩尾瀬の顔が浮かぶんだろう。
 あたしは…塩尾瀬に惹かれていた―…?

「一花が好きだ。この感情が普通じゃなくても、お前の望むような感情と似ていなくてもただ俺の傍にいてくれたら…」

 周の手が服の間に入り込むと、あたしは「やだ!」と悲鳴を上げた。
 思い切り突き飛ばすと、そのまま玄関の扉を開けて外に飛び出す。門に背中を預けて空を見上げていた友梨が振り返った。
 泣いてるあたしに驚く友梨を無視して、おばあちゃんの家に駆けこむと、塩尾瀬の傘が目に留まった。

「どうしたらいいのっ…?」

 傘を腕に抱いたまま玄関で蹲っていると、いつの間にか起きていたおばあちゃんが背中を擦っていた。
 もう薬を飲むだけでは体に棲みつく悪魔を追い払えないとわかってる。
 この町に居続けたい未練は、周や友梨の苦しみを前にして崩れかけつつあった。