どこか遠くのほうでチャイムが鳴り響いた気がした。
 我に返ろうとするたびに、周の熱い息があたしの頬を掠める。やわらかな唇が重なるたびに、あたしは腕を伸ばして周から逃れようとした。

「やめてっ、あたしこんなことしたくない!」
「……傍にいてくれ、一花」

 また唇を塞がれると、体中に詰め込まれた記憶がゆがんでいくような気がした。
 無邪気に笑う周の顔。小さな手を繋いでアイスを買いに行ったあの瞬間。友梨と公園でこっそり恋バナを楽しんだとき―。

「友梨乃のことを考えるな。ただ、俺だけを選べばいい。俺だけがお前をいろんなことから守ってやる。逆に俺から離れたらお前はもっとひどい目に遭うんだぜ」
「そ、そんな…いままで周は友梨のことが好きだと思って」
「一花を守るためなら、アイツのご機嫌取りだって嫌でもやるしかなかった。俺がどんな気持ちでお前を見てきたのか、何もしらねえだろ。友梨乃を捨てることなんて簡単だろ。あんなにいじめられてきたんだ。清々するじゃねえか。俺の親父だって、お前が嫁に来れば喜んでくれる。本当は俺のことが好きなのに、全然素直にならない一花を見るのが楽しかったけど、もう終わりにする。お前と付き合えるなら見て見ぬふりをやめるから」