「友梨のことは、好きじゃ、ないの…?」
「…俺の母さんは友梨乃の母親と仲がいいから、俺と友梨乃の結婚を望んでた。だからかわかんねえけど、俺は親の言いなりになんてならずに一花と結婚するんだって思ってた」

 それは好きってことになるんだろうか。あたしは周にとって都合のいいおもちゃみたいな扱いをされているんじゃないの…?

「……あたし」

 はっきり言わなくちゃいけない。
 あたしや友梨にこだわらなくていい。どっちとも離れていいんだって。周が好きだと思ったひとと結婚したらいいんだよって…。

「一花は俺のこと嫌いか? 俺に消えてほしいのか」
「そんな、あたし周のこと好きだよ。消えてほしくなんかない!」

 だって、家族だから。血が繋がっていなくても、あたしは周のことを家族のように大切に思ってる。

「同じくらい友梨のことも―」

 あたしに顔を近づけた周が凍てついた瞳を細める。塩尾瀬とは似ても似つかない、どこか恐ろしい表情を浮かべた。
 真夏なのに体が凍ってしまったみたいに動かない。

 いま、生きていることがわかるくらい、周の息遣いを感じてる。

 あたし、いま周の唇を感じてる―。