「なあ、俺はもうどうでもいいのか?」

 ぐっと腕を引っ張られると、あっという間に床に押し倒された。

「や、やだ…!」
「お前はずっと俺の傍にいればよかった。なのに、俺より塩尾瀬を取るんだな」

 すぐに潤んでしまう瞳で周を見上げる。周はシャツを引っ張って乱暴に涙を拭ってくれた。こんなときにまで周の優しさは変わっていない。

「好きなんだろ。塩尾瀬のこと」
「違う、あたしは…」
「好きだって認めろよ」
「塩尾瀬とは友達だもん…本当に」

 周の手があたしの耳に触れて肩が飛び跳ねた。
 こんなに周が近くにいるのはいつぶり? いままでにあっただろうか。
 なんで、あたし怖いって思うんだろう。相手は大好きな周なのに。ずっと傍にいてほしかったひとのはずなのに。

「…俺から離れんのか? 俺たちはずっと一緒にいただろ。十歳のときからずっと。何がきっかけなんだよ…」

 ときめくはずの心臓は震えたまま、冷や汗をかいているみたいだ。
 大きな手のひらが耳から離れて、そのまま首に触れる。
 身じろいでも周の大きな体はびくともしない。

「だめ、だよ。こんなふうに触れるの。周には友梨が…」
「お前のせいなんだよ!」

 大声を上げた周に身を縮めると、そのまま体重をかけられた。