「まぁこんばんは、伯父様。
お帰りなさい、蓮見。」
あれから蓮見は何と午後でも夕方でも無く、夜に帰ってきた。
それも伯父様と一緒に。
僕が案内した訳でも出迎えた訳でも無く、部屋でうたた寝をしていたら銀に起こされて手を引かれるがままに付いて行ったら、既に客間に案内されて紅茶やら珈琲やらを飲んでゆっくりしている二人が居たのだ。
そして蓮見の話ではどうやら赤井蛍の方が蓮見の事を覚えていた様で、講義を終えて帰ろうとしたら赤井の使用人に捕まっていたらしい。
逆らうに逆らえず粛々と赤井家に連れて行かれたものの。
赤井蛍と会って早々に伯父様に見付かったらしく、速攻揶揄われつつ一緒にその場を離れてそのままここまで来たんだそうだ。
ちなみに、父様はまだ赤井家に居るそうなので、置いてかれた形になる。
大変だったのは分かる。
分かるし、労りたい所ではあるが。
二人揃っているのなら丁度良い。
「お二人共、お疲れ様でございました。
しかし二人が揃っているのは僕としても丁度良いです」
そうして僕は蓮見の下の名前と、諸々の関係性を聞き出したのだった。
この時伯父様は「まだ教えてなかったの?」と驚いた後、お腹を抱えて笑い出した。
──────つまり僕から見た赤井当主は母様の兄だから伯父様で、蓮見は父様の弟だから叔父様に当たる存在で。
蓮見にとって僕は姪に当たる、と。
いやいや父様!?
最初、雪見家の分家の蓮見家からって言って無かった!?
全然近いじゃん!?
しかも蓮見は少し前までは雪見の性を名乗っていた、と?
蓮見の下の名前は柊。
つまり現在は蓮見柊と名乗っている、と。
そしてそれを知らなかったのは僕だけだったと。
その事に衝撃を受ける僕を見た蓮見はしゅん、と落ち込んだ様子で「この歳で時雨にオジさんと呼ばれたく無かったもので……」と中々に可哀想な事を言っていた。
雪見家の使用人から度々信頼の声は聞いていたし、知ってもいた。
けど、僕には蓮見への疑念が募るだけだった。
だから、父様にも聞いてみた。
そしたら父様も僕に楽しそうにして「本人に聞きなさい」と言うだけだった。
使用人の蓮見への信頼は、蓮見を「雪見柊」として見ていた頃があったからだったんだ。
…………僕の護衛として蓮見が登場してからどのくらい経った?
数年は経ってんね?
しかも小説のページ数で言ったら14ページ。
僕が蓮見に興味持たな過ぎだって言われても仕方ないね?
ん?柊?
僕どっかで柊って名前の存在知ってるな?
どこだっけ?
多分、小説の中だよな?
確か、そう。
蓮見柊って事は、父様の弟とはいえど分家に降格しているので。
僕が時期当主の立場で。
蓮見柊は……継承権二位で。
蓮見って小説内で時雨に一時的に苗字を貸した家じゃなかった!?
小説の中での時雨は、浅葱薫の死を見届けて。
初めての殺人と同時に、赤井蛍を命懸けで助けて。
ギリギリ助かって。
蓮見邸に預けられて。
苗字を変えて「蓮見時雨」って名前で転校して。
中学までは蓮見邸から普通の、一般市立学校に通って。
蓮見邸で世話して貰って。
赤井家や雪見家からは引き離されて過ごして。
高等部からも「蓮見時雨」の名前で私立御鏡学園に外部入学して。
しかもその時には、時雨には監視の様な人が付いてて。
それが確か蓮見柊って名前─────。
って蓮見かいっ!!
しかも、終盤で蓮見柊は時雨を裏切って時雨が死ぬ切っ掛けになる存在だった。
あー……拙い。
僕の死亡フラグがめっちゃ近くに居たねぇ。
蓮見のお湯で透けたシャツ越しに見えちゃった身体に胸高鳴らせてる場合じゃ無かったねぇ!
ってか最早黒歴史!
ある意味心臓掴まれちゃってる!
あ"ぁ"ーーーーー!!
無理!
蓮見に裏切られるとか!
信頼しかけたこのタイミングで発覚するとか!
罪な男だなぁ!
いやこのタイミングになったのは僕自身のせいか!
自業自得で泣けてくる!
ってか吐きそう!
頭痛がした。
僕は思わず、こめかみを押さえて一言置いて客間を出た。
伯父様と蓮見がどんな表情で僕を見てるかなんて確認する余裕は無かった。
「──────整理する時間を下さい」
客間を出た僕は、部屋の前で待機していた銀に気付きもしないまま自分の部屋に戻った。
銀が僕の様子がおかしい事に気付いて、部屋の中に入ってくる。
僕はそれにも気付かず、自分の机の引き出しから紙を数枚と筆箱を取り出しておく。
そしてもう一度考える。
そもそも小説内で蓮見柊が時雨を裏切ったのは、時雨の言動と諸々の決断が雪見家に不都合だったから。
つまり蓮見柊は時雨を切り捨てたのであって、雪見家の事は裏切っていない。
そして小説内での蓮見柊との関わりは最低限と言える程、希薄な関係だった。
蓮見柊が時雨の考えを読めない程に。
悪い関係、では無いにしても。
時雨からすれば、蓮見柊の立場は少し目障りな護衛や監視の様な扱いになっていた。
小説内の時雨が無口だったのには色々理由があったみたいだが、一番の原因は浅葱薫の死の目撃と初めての人殺しであった。
幼い時雨は泣かない代わりに、言葉を失いつつあったのだ。
時雨の失語症の様な症状は中学の卒業まで続いた。
丸三年、殆ど言葉を発さなかったのだ。
高校からはどうにか言葉を発する様にはなったものの表情は固く、何を考えているのか分からない状態だった。
僕は一度、小説内での蓮見柊との関係性を書き出していた。
そうして、小説と今の蓮見と僕の関係性の違いを最後に書き上げる。
誤差とは到底言えない程の差が開いている事に気付き、僕は安堵のため息を付く。
そしてふと、僕の部屋の中に人の気配を感じた。
「…………ん?」
机から顔を上げ、振り返る。
「お嬢様、気付きましたか。
凄い集中力でしたね」
僕の半径数メートル後ろ、部屋の扉の前に銀が立っていた。
僕の部屋はそこそこ広いんだ。
机の上に散乱した紙の内容は読めないまでも、僕の呟きは拾っている筈。
「銀、いつから居たの?」
「お嬢様と一緒に入りましたので、かれこれ数時間は経っています。
度々お茶もお持ちして、何度か声も掛けたのですが。
返事が無かったので見守らせて頂きました。
窓の外では空が白み始めていますよ」
あぁ、勿論お茶は邪魔になりそうだったのでそちらの机ではなく、こちらのテーブルに置きましたよ。
なんて付け足す銀。
僕は椅子から降りて銀に近付く。
「つまり最初から居たって事ね。
うぐぐ、プライバシーの侵害だぁ。
でも銀が僕の様子を全て見てしまったのはもう起きてしまった事だから仕方ない。
ならば今夜見た全てを話してはいけない。
いっその事忘れる事だ」
「今夜からずっと様子がおかしいですが、本当におかしな所でプライバシー問題を出してきますね。
…………蓮見にもですか?」
「蓮見には余計に!」
「もう今更だと思いますよ」
苦笑する様な銀のそんな言葉と同時に扉が開いた。
扉の先には薄ら目の下に隈のある蓮見が居た。
「えぇ、今更かと」
「ひゅっ…………」
不安と心配から丸々一夜声を掛けずに部屋の前に居たらしい。
僕は心の底から悲鳴を上げそうになった状態で固まる。
ふと、気付いた時には。
銀も蓮見も、僕の部屋の中に入ってソファでお茶を飲んでいた。
ここで最も有り難いのは、僕の机の上に散乱している紙が気になるだろうに、それ等をチラ見はするものの僕の方が最優先なのか、僕を気にかけ続けてくれている事だった。
今も僕は蓮見の膝の上に座らせられていた。
…………甘やかしが過ぎないだろうか。
「銀は、知ってたの?
蓮見が僕の叔父、って言う立場だった事」
「……はい、以前から」
以前っていつからだよ。
いや、僕だけが知らなかった事とはいえ、聞けば教えて貰える範疇だった。
それにこれから僕がする事を思えば、拗ねるのは良くないか。
「つまり、知らなかったのは僕だけ…………」
「ご、ごめん、時雨。
意地悪がしたかった訳じゃないんだ」
「大丈夫、最初に聞いた。
父様が同じ意見かどうかは知らないけど。
あ、呼び方とか態度とか…………改めた方が良い?」
「それこそ今更だ。
俺をオジさんと呼びさえしなければ大丈夫だよ」
蓮見は少し前に動き出した僕に気付き、僕の銀への質問で慌てた。
それでも僕から手を離さないのは流石と言うべきか。
心なしか、顔色も少し悪い気もする。
いや、責めてないって。
でも、そうだな。
「わかった。
二人が僕に内緒にしていた事。
二人がさっきまでの僕を忘れてくれるのであれば、僕も二人を許そう」
僕は抵抗する蓮見の腕の中から抜け出して、自分の机の上の紙を纏める。
「え、その紙の内容を含めて様子がおかしかった理由を教えて頂けるのではないのですか…………」
銀のその言葉に少し考え、こめかみを押さえる。
「雪見家にも存在するであろう僕と蓮見の派閥の問題が落ち着くなら説明する所なんだけど、そうでも無さそうだから止めておくよ」
「派閥問題…………」
僕の言葉に遠い目をする蓮見と銀。
派閥問題を解決するなんて無理だよねぇ。
いくら当人同士では仲が悪くなかろうが、継承権の問題は解決しているように見えていようが、周囲はそうとは限らないのだから。
って事で。
僕は全ての紙を集めた事を確認すると、机の下にあるシュレッダーを机の上に出して紙を一枚ずつシュレッダーにかける。
蓮見と銀は僕の一連行動を苦笑しつつ眺めていた。
全ての紙をシュレッダーにかけ終えた頃には、陽は完全に登っていた。
「所で蓮見、伯父様はどうしてる?」
「食事を用意して客室に案内させてので、一泊している頃かと」
「あ、居るんだ」
「そういえば、暫くしたら朝食になるかと思われますがお嬢様はどうしますか」
「このまま起きておいて、朝食を一緒に摂って父様や伯父様と蓮見を玄関まで見送るとするかな」
「分かりました。
では、その前に一度さっぱりしましょうか」
銀からのシャワーの提案に僕は必死に眠らない様にしていた。
朝食の時に父様と伯父様のニヤニヤした顔と一緒に過ごす事になった。
少しだけ苛ついたのは仕方ないと思う。
父様達を見送った後、部屋に戻って早々に寝たのは言うまでもない。
さてそんな事があってから半月後に僕の足は完治したのだった。
お帰りなさい、蓮見。」
あれから蓮見は何と午後でも夕方でも無く、夜に帰ってきた。
それも伯父様と一緒に。
僕が案内した訳でも出迎えた訳でも無く、部屋でうたた寝をしていたら銀に起こされて手を引かれるがままに付いて行ったら、既に客間に案内されて紅茶やら珈琲やらを飲んでゆっくりしている二人が居たのだ。
そして蓮見の話ではどうやら赤井蛍の方が蓮見の事を覚えていた様で、講義を終えて帰ろうとしたら赤井の使用人に捕まっていたらしい。
逆らうに逆らえず粛々と赤井家に連れて行かれたものの。
赤井蛍と会って早々に伯父様に見付かったらしく、速攻揶揄われつつ一緒にその場を離れてそのままここまで来たんだそうだ。
ちなみに、父様はまだ赤井家に居るそうなので、置いてかれた形になる。
大変だったのは分かる。
分かるし、労りたい所ではあるが。
二人揃っているのなら丁度良い。
「お二人共、お疲れ様でございました。
しかし二人が揃っているのは僕としても丁度良いです」
そうして僕は蓮見の下の名前と、諸々の関係性を聞き出したのだった。
この時伯父様は「まだ教えてなかったの?」と驚いた後、お腹を抱えて笑い出した。
──────つまり僕から見た赤井当主は母様の兄だから伯父様で、蓮見は父様の弟だから叔父様に当たる存在で。
蓮見にとって僕は姪に当たる、と。
いやいや父様!?
最初、雪見家の分家の蓮見家からって言って無かった!?
全然近いじゃん!?
しかも蓮見は少し前までは雪見の性を名乗っていた、と?
蓮見の下の名前は柊。
つまり現在は蓮見柊と名乗っている、と。
そしてそれを知らなかったのは僕だけだったと。
その事に衝撃を受ける僕を見た蓮見はしゅん、と落ち込んだ様子で「この歳で時雨にオジさんと呼ばれたく無かったもので……」と中々に可哀想な事を言っていた。
雪見家の使用人から度々信頼の声は聞いていたし、知ってもいた。
けど、僕には蓮見への疑念が募るだけだった。
だから、父様にも聞いてみた。
そしたら父様も僕に楽しそうにして「本人に聞きなさい」と言うだけだった。
使用人の蓮見への信頼は、蓮見を「雪見柊」として見ていた頃があったからだったんだ。
…………僕の護衛として蓮見が登場してからどのくらい経った?
数年は経ってんね?
しかも小説のページ数で言ったら14ページ。
僕が蓮見に興味持たな過ぎだって言われても仕方ないね?
ん?柊?
僕どっかで柊って名前の存在知ってるな?
どこだっけ?
多分、小説の中だよな?
確か、そう。
蓮見柊って事は、父様の弟とはいえど分家に降格しているので。
僕が時期当主の立場で。
蓮見柊は……継承権二位で。
蓮見って小説内で時雨に一時的に苗字を貸した家じゃなかった!?
小説の中での時雨は、浅葱薫の死を見届けて。
初めての殺人と同時に、赤井蛍を命懸けで助けて。
ギリギリ助かって。
蓮見邸に預けられて。
苗字を変えて「蓮見時雨」って名前で転校して。
中学までは蓮見邸から普通の、一般市立学校に通って。
蓮見邸で世話して貰って。
赤井家や雪見家からは引き離されて過ごして。
高等部からも「蓮見時雨」の名前で私立御鏡学園に外部入学して。
しかもその時には、時雨には監視の様な人が付いてて。
それが確か蓮見柊って名前─────。
って蓮見かいっ!!
しかも、終盤で蓮見柊は時雨を裏切って時雨が死ぬ切っ掛けになる存在だった。
あー……拙い。
僕の死亡フラグがめっちゃ近くに居たねぇ。
蓮見のお湯で透けたシャツ越しに見えちゃった身体に胸高鳴らせてる場合じゃ無かったねぇ!
ってか最早黒歴史!
ある意味心臓掴まれちゃってる!
あ"ぁ"ーーーーー!!
無理!
蓮見に裏切られるとか!
信頼しかけたこのタイミングで発覚するとか!
罪な男だなぁ!
いやこのタイミングになったのは僕自身のせいか!
自業自得で泣けてくる!
ってか吐きそう!
頭痛がした。
僕は思わず、こめかみを押さえて一言置いて客間を出た。
伯父様と蓮見がどんな表情で僕を見てるかなんて確認する余裕は無かった。
「──────整理する時間を下さい」
客間を出た僕は、部屋の前で待機していた銀に気付きもしないまま自分の部屋に戻った。
銀が僕の様子がおかしい事に気付いて、部屋の中に入ってくる。
僕はそれにも気付かず、自分の机の引き出しから紙を数枚と筆箱を取り出しておく。
そしてもう一度考える。
そもそも小説内で蓮見柊が時雨を裏切ったのは、時雨の言動と諸々の決断が雪見家に不都合だったから。
つまり蓮見柊は時雨を切り捨てたのであって、雪見家の事は裏切っていない。
そして小説内での蓮見柊との関わりは最低限と言える程、希薄な関係だった。
蓮見柊が時雨の考えを読めない程に。
悪い関係、では無いにしても。
時雨からすれば、蓮見柊の立場は少し目障りな護衛や監視の様な扱いになっていた。
小説内の時雨が無口だったのには色々理由があったみたいだが、一番の原因は浅葱薫の死の目撃と初めての人殺しであった。
幼い時雨は泣かない代わりに、言葉を失いつつあったのだ。
時雨の失語症の様な症状は中学の卒業まで続いた。
丸三年、殆ど言葉を発さなかったのだ。
高校からはどうにか言葉を発する様にはなったものの表情は固く、何を考えているのか分からない状態だった。
僕は一度、小説内での蓮見柊との関係性を書き出していた。
そうして、小説と今の蓮見と僕の関係性の違いを最後に書き上げる。
誤差とは到底言えない程の差が開いている事に気付き、僕は安堵のため息を付く。
そしてふと、僕の部屋の中に人の気配を感じた。
「…………ん?」
机から顔を上げ、振り返る。
「お嬢様、気付きましたか。
凄い集中力でしたね」
僕の半径数メートル後ろ、部屋の扉の前に銀が立っていた。
僕の部屋はそこそこ広いんだ。
机の上に散乱した紙の内容は読めないまでも、僕の呟きは拾っている筈。
「銀、いつから居たの?」
「お嬢様と一緒に入りましたので、かれこれ数時間は経っています。
度々お茶もお持ちして、何度か声も掛けたのですが。
返事が無かったので見守らせて頂きました。
窓の外では空が白み始めていますよ」
あぁ、勿論お茶は邪魔になりそうだったのでそちらの机ではなく、こちらのテーブルに置きましたよ。
なんて付け足す銀。
僕は椅子から降りて銀に近付く。
「つまり最初から居たって事ね。
うぐぐ、プライバシーの侵害だぁ。
でも銀が僕の様子を全て見てしまったのはもう起きてしまった事だから仕方ない。
ならば今夜見た全てを話してはいけない。
いっその事忘れる事だ」
「今夜からずっと様子がおかしいですが、本当におかしな所でプライバシー問題を出してきますね。
…………蓮見にもですか?」
「蓮見には余計に!」
「もう今更だと思いますよ」
苦笑する様な銀のそんな言葉と同時に扉が開いた。
扉の先には薄ら目の下に隈のある蓮見が居た。
「えぇ、今更かと」
「ひゅっ…………」
不安と心配から丸々一夜声を掛けずに部屋の前に居たらしい。
僕は心の底から悲鳴を上げそうになった状態で固まる。
ふと、気付いた時には。
銀も蓮見も、僕の部屋の中に入ってソファでお茶を飲んでいた。
ここで最も有り難いのは、僕の机の上に散乱している紙が気になるだろうに、それ等をチラ見はするものの僕の方が最優先なのか、僕を気にかけ続けてくれている事だった。
今も僕は蓮見の膝の上に座らせられていた。
…………甘やかしが過ぎないだろうか。
「銀は、知ってたの?
蓮見が僕の叔父、って言う立場だった事」
「……はい、以前から」
以前っていつからだよ。
いや、僕だけが知らなかった事とはいえ、聞けば教えて貰える範疇だった。
それにこれから僕がする事を思えば、拗ねるのは良くないか。
「つまり、知らなかったのは僕だけ…………」
「ご、ごめん、時雨。
意地悪がしたかった訳じゃないんだ」
「大丈夫、最初に聞いた。
父様が同じ意見かどうかは知らないけど。
あ、呼び方とか態度とか…………改めた方が良い?」
「それこそ今更だ。
俺をオジさんと呼びさえしなければ大丈夫だよ」
蓮見は少し前に動き出した僕に気付き、僕の銀への質問で慌てた。
それでも僕から手を離さないのは流石と言うべきか。
心なしか、顔色も少し悪い気もする。
いや、責めてないって。
でも、そうだな。
「わかった。
二人が僕に内緒にしていた事。
二人がさっきまでの僕を忘れてくれるのであれば、僕も二人を許そう」
僕は抵抗する蓮見の腕の中から抜け出して、自分の机の上の紙を纏める。
「え、その紙の内容を含めて様子がおかしかった理由を教えて頂けるのではないのですか…………」
銀のその言葉に少し考え、こめかみを押さえる。
「雪見家にも存在するであろう僕と蓮見の派閥の問題が落ち着くなら説明する所なんだけど、そうでも無さそうだから止めておくよ」
「派閥問題…………」
僕の言葉に遠い目をする蓮見と銀。
派閥問題を解決するなんて無理だよねぇ。
いくら当人同士では仲が悪くなかろうが、継承権の問題は解決しているように見えていようが、周囲はそうとは限らないのだから。
って事で。
僕は全ての紙を集めた事を確認すると、机の下にあるシュレッダーを机の上に出して紙を一枚ずつシュレッダーにかける。
蓮見と銀は僕の一連行動を苦笑しつつ眺めていた。
全ての紙をシュレッダーにかけ終えた頃には、陽は完全に登っていた。
「所で蓮見、伯父様はどうしてる?」
「食事を用意して客室に案内させてので、一泊している頃かと」
「あ、居るんだ」
「そういえば、暫くしたら朝食になるかと思われますがお嬢様はどうしますか」
「このまま起きておいて、朝食を一緒に摂って父様や伯父様と蓮見を玄関まで見送るとするかな」
「分かりました。
では、その前に一度さっぱりしましょうか」
銀からのシャワーの提案に僕は必死に眠らない様にしていた。
朝食の時に父様と伯父様のニヤニヤした顔と一緒に過ごす事になった。
少しだけ苛ついたのは仕方ないと思う。
父様達を見送った後、部屋に戻って早々に寝たのは言うまでもない。
さてそんな事があってから半月後に僕の足は完治したのだった。
