銀に頭を撫でて貰おうとしただけでそこまで不機嫌になるとは……。
僕は渋々銀の手を離し、蓮見を見る。
蓮見がお盆に乗せて持ってきた軽食を見てお腹が鳴る。
おにぎりと漬物と味噌汁。
豪華な方の軽食の定番が来たね。
「お腹、減ってますよね。
胃もたれしないようにゆっくり食べてくださいね」
「ありがとう。
ご飯も食べずに変な時間になっちゃったものね。
そういえば、蓮見と銀は大丈夫なの?」
「俺達はもう食べていますから」
「そっかぁ」
そうして僕が銀に頭を撫でさせようとしてから数日。
蓮見が僕を抱き上げて離してくれなくなった。
いや、着替えとかトイレやお風呂に入る時は流石に離してくれるけれど、それ以外はまともに離してくれない。
いや、最初はお風呂にも一緒に入ろうとしてきたんだ。
流石に全力で暴れて足が痛み、傷口が開いて血が流れた。
歩けなくなっても知りませんよ、との言葉と共にその日はおとなしく蓮見に風呂に入れられた。
蓮見?
シャツとズボンだけの軽装で無理矢理風呂に入ってきてた。
まぁ、脱がれるよりは。
って思った僕が馬鹿だった!
やばい。
凄い。
凄かった!
何がって?色気だよ!
遠縁とは聞いてたけど、これでも一応血縁関係の筈なんだ!
それなのに!
それなのにあの色気を僕が感じるって!!
いやこれ好きになるなって方が無理だろ。
いや、僕よ。
その色気に気付いてはいけない!
今の僕は中等部に入ったとはいえ
これ以上は想像に任せるけどさぁ!
実際に一緒に入った様なもんじゃん!
僕がプライベートを確保しようとしてもカーテン越しやトイレなら扉越し、着替えやお風呂の時なんかは衝立越しに居る。
そう、例えば…………何かが欲しいと言っても、蓮見が僕を離して部屋を出るのはほんの少し。
誰かが部屋の外に常時立ってるのかって言うぐらい。
数分後には欲しいと言った物が部屋に届けられる状態になっていた。
部屋、と言うか近くに蓮見が必ず居る状況に慣れそうになっている事に時々恐ろしさを感じる。
僕が寝てる時はどうなってるのかって?
さぁね。
ベッドの天蓋の分厚いカーテンを締め切ってしまうから分からないな。
カーテン越しには居るんじゃないか?
僕はもう諦めて、蓮見が安心するまでそのままにさせておく事にした。
蓮見に甲斐甲斐しくお世話される現状に慣れたら拙いと思うのは僕だけだろうか。
銀とは最近会っていない。
そんな事が続く事一週間。
僕の足の傷が塞がった。
僕の足が地面に着けられる日が来たのだ。
実際は傷口が塞がっただけなので、無理をすると完全に歩いたり走れなくなるとか言われたけど。
最初はスリッパを履いた状態で引き摺って歩いた。
すると僕の歩き方と言うか、歩いてる音があまりにも独特だったらしく、暫くの間は雪見邸の敷地内では何処に行っても僕の存在が分かりやすいと言われていた。
まぁ、お陰で僕は蓮見が大学に行く様になっても一人で雪見邸内ではスマホも装飾品も付けずに自由にしているのだけれど。
偶にお客様が来たりすると銀がやって来る。
けど銀は僕の傍に控えるだけだし、僕はお客様を出迎える訳でもないので楽だ。
それでも時々、雪見家に居座る時間が長かったり、雪見家の秘密を少しでも知りたいとか、僕に会いたいとか……何かと強引なお客様が来たりすると銀が僕に狐面を手渡したりしてくれる。
お客様が居る間、僕は念の為に狐面をして過ごすと言う訳だ。
そんな日々が穏やかに過ぎていく事一ヶ月。
僕はふと、思い出した。
そういえば蓮見について赤井様と父様が何か言っていたな、と。
『蓮見って……なぁ雪見、こいつお前の『紘、その先は二人の領分です』
『おっと、悪い』
あの時の二人のやり取りは蓮見の事をよく知っていると言う事に他ならない態度だった。
疑問が湧く。
蓮見に下の名前を聞いて、答えてくれるだろうかと。
どうせ父様に聞いても、以前の様に本人に聞くように言われるだけなのだから、直接聞く他ない。
口を開きかけて、現状を思い出す。
あれ、そういえば今って…………。
「お嬢様」
「ん?」
「何故、屋根に」
屋根の上に居る僕を下から戸惑う様に見上げる銀。
今の僕は狐面すらせず、雪見本家の屋根に寝転がっていた。
雪見家の者以外は僕を僕と認識が出来ない事だろう。
それが例え、雪見家や雪見時雨を探らんとしている者達でさえも。
まぁそもそも雪見家の者が中から排除し、外から遠ざけてしまうからなのだけれど。
望遠鏡を使って運良く僕を見付ける事が出来たとしても、僕が誰かまでは分からない事だろう。
衛生は……僕が知りたいぐらいだよ。
「んー、怪我が完治したら久しぶりに学園に通おうかなぁ、なんて」
「出席日数ですか」
「うんそう。
それと、蓮見に聞きたい事も思い出した」
屋根から起き上がって、銀を見る。
銀は僕を見上げるばかりで、登ってこようとはしない。
その様子に僕は屋根から自力で降りようと試みる。
……が、怪我をした方の足を垂らした所で一瞬悩んだ。
異能力を使って降りるか、銀の手を借りるかを。
僕は銀を見つめて両腕を広げ、滑り落ちた。
銀は一瞬驚くものの、僕の意図が分かったらしい。
器用にも僕の足と脇に腕を通して受け止めた。
「お嬢様!危ないじゃないですか!」
「銀なら受け止めてくれるかと思って。
ごめんなさい」
「はぁ、彼が帰ってくるのが楽しみですね」
「蓮見、答えてくれるかなぁ」
僕は何も言わずに銀にしがみついていると、銀はそのまま歩き出す。
多分行き先は僕の部屋だ。
「寧ろお嬢様は俺達にも殆ど質問しませんよね」
「うん、しないね」
「理由を聞いても良いですか?」
「雪見だからって言うのは理由にはならない?」
「寧ろ、どうしてそれが理由になると思ったんですか」
部屋に着いても僕はそれでも銀から離れなかった。
無情にも僕を引き剥がし、ソファに降ろした銀は近くに控えた。
「そりゃ雪見家は秘密主義だから。
それに、それのお陰で銀は、今も此処に居る訳だし?
でもそうだなぁ。
質問しなくても、雪見に必要な情報なら最低限僕にも入ってくるし。
蓮見や父様が言わないって事は、問題ないと思ってるからかなぁ?
まぁ、そもそも引き摺る様な問題は雪見家で管理されてるからねぇ」
銀は僕をジッと見つめる。
僕は身体から力を抜いてソファにだらり、と背中を預ける。
「…………凄いですね」
「ん?何が?」
「自分の家族に対する信頼が、ですよ」
「うーん、信頼と信用は違うんだけどねぇ。
銀は家族に頼ったりはしないのかな?
ほら、あの時だってさ。
弟君は近くに居た訳だし、協力し合っていれば銀は雪見家に来る必要もなかったと思うんだよねぇ」
まぁ、協力し合ってたらその弟が生きている保証は欠片も無いけど。
僕の言葉に銀は少し考え、伺う様に問い掛ける。
「……迷惑でしたか?」
「迷惑だと思った事は一度も無い。
ただ、時々不安になるだけだ」
「え、すみません」
「銀が謝る事じゃないから気にするな」
僕はそう言って銀からの視線を気にせず近くに置いてあった本を開き、蓮見の帰りを待つ。
蓮見、いつ帰ってくるんだろ。
僕は渋々銀の手を離し、蓮見を見る。
蓮見がお盆に乗せて持ってきた軽食を見てお腹が鳴る。
おにぎりと漬物と味噌汁。
豪華な方の軽食の定番が来たね。
「お腹、減ってますよね。
胃もたれしないようにゆっくり食べてくださいね」
「ありがとう。
ご飯も食べずに変な時間になっちゃったものね。
そういえば、蓮見と銀は大丈夫なの?」
「俺達はもう食べていますから」
「そっかぁ」
そうして僕が銀に頭を撫でさせようとしてから数日。
蓮見が僕を抱き上げて離してくれなくなった。
いや、着替えとかトイレやお風呂に入る時は流石に離してくれるけれど、それ以外はまともに離してくれない。
いや、最初はお風呂にも一緒に入ろうとしてきたんだ。
流石に全力で暴れて足が痛み、傷口が開いて血が流れた。
歩けなくなっても知りませんよ、との言葉と共にその日はおとなしく蓮見に風呂に入れられた。
蓮見?
シャツとズボンだけの軽装で無理矢理風呂に入ってきてた。
まぁ、脱がれるよりは。
って思った僕が馬鹿だった!
やばい。
凄い。
凄かった!
何がって?色気だよ!
遠縁とは聞いてたけど、これでも一応血縁関係の筈なんだ!
それなのに!
それなのにあの色気を僕が感じるって!!
いやこれ好きになるなって方が無理だろ。
いや、僕よ。
その色気に気付いてはいけない!
今の僕は中等部に入ったとはいえ
これ以上は想像に任せるけどさぁ!
実際に一緒に入った様なもんじゃん!
僕がプライベートを確保しようとしてもカーテン越しやトイレなら扉越し、着替えやお風呂の時なんかは衝立越しに居る。
そう、例えば…………何かが欲しいと言っても、蓮見が僕を離して部屋を出るのはほんの少し。
誰かが部屋の外に常時立ってるのかって言うぐらい。
数分後には欲しいと言った物が部屋に届けられる状態になっていた。
部屋、と言うか近くに蓮見が必ず居る状況に慣れそうになっている事に時々恐ろしさを感じる。
僕が寝てる時はどうなってるのかって?
さぁね。
ベッドの天蓋の分厚いカーテンを締め切ってしまうから分からないな。
カーテン越しには居るんじゃないか?
僕はもう諦めて、蓮見が安心するまでそのままにさせておく事にした。
蓮見に甲斐甲斐しくお世話される現状に慣れたら拙いと思うのは僕だけだろうか。
銀とは最近会っていない。
そんな事が続く事一週間。
僕の足の傷が塞がった。
僕の足が地面に着けられる日が来たのだ。
実際は傷口が塞がっただけなので、無理をすると完全に歩いたり走れなくなるとか言われたけど。
最初はスリッパを履いた状態で引き摺って歩いた。
すると僕の歩き方と言うか、歩いてる音があまりにも独特だったらしく、暫くの間は雪見邸の敷地内では何処に行っても僕の存在が分かりやすいと言われていた。
まぁ、お陰で僕は蓮見が大学に行く様になっても一人で雪見邸内ではスマホも装飾品も付けずに自由にしているのだけれど。
偶にお客様が来たりすると銀がやって来る。
けど銀は僕の傍に控えるだけだし、僕はお客様を出迎える訳でもないので楽だ。
それでも時々、雪見家に居座る時間が長かったり、雪見家の秘密を少しでも知りたいとか、僕に会いたいとか……何かと強引なお客様が来たりすると銀が僕に狐面を手渡したりしてくれる。
お客様が居る間、僕は念の為に狐面をして過ごすと言う訳だ。
そんな日々が穏やかに過ぎていく事一ヶ月。
僕はふと、思い出した。
そういえば蓮見について赤井様と父様が何か言っていたな、と。
『蓮見って……なぁ雪見、こいつお前の『紘、その先は二人の領分です』
『おっと、悪い』
あの時の二人のやり取りは蓮見の事をよく知っていると言う事に他ならない態度だった。
疑問が湧く。
蓮見に下の名前を聞いて、答えてくれるだろうかと。
どうせ父様に聞いても、以前の様に本人に聞くように言われるだけなのだから、直接聞く他ない。
口を開きかけて、現状を思い出す。
あれ、そういえば今って…………。
「お嬢様」
「ん?」
「何故、屋根に」
屋根の上に居る僕を下から戸惑う様に見上げる銀。
今の僕は狐面すらせず、雪見本家の屋根に寝転がっていた。
雪見家の者以外は僕を僕と認識が出来ない事だろう。
それが例え、雪見家や雪見時雨を探らんとしている者達でさえも。
まぁそもそも雪見家の者が中から排除し、外から遠ざけてしまうからなのだけれど。
望遠鏡を使って運良く僕を見付ける事が出来たとしても、僕が誰かまでは分からない事だろう。
衛生は……僕が知りたいぐらいだよ。
「んー、怪我が完治したら久しぶりに学園に通おうかなぁ、なんて」
「出席日数ですか」
「うんそう。
それと、蓮見に聞きたい事も思い出した」
屋根から起き上がって、銀を見る。
銀は僕を見上げるばかりで、登ってこようとはしない。
その様子に僕は屋根から自力で降りようと試みる。
……が、怪我をした方の足を垂らした所で一瞬悩んだ。
異能力を使って降りるか、銀の手を借りるかを。
僕は銀を見つめて両腕を広げ、滑り落ちた。
銀は一瞬驚くものの、僕の意図が分かったらしい。
器用にも僕の足と脇に腕を通して受け止めた。
「お嬢様!危ないじゃないですか!」
「銀なら受け止めてくれるかと思って。
ごめんなさい」
「はぁ、彼が帰ってくるのが楽しみですね」
「蓮見、答えてくれるかなぁ」
僕は何も言わずに銀にしがみついていると、銀はそのまま歩き出す。
多分行き先は僕の部屋だ。
「寧ろお嬢様は俺達にも殆ど質問しませんよね」
「うん、しないね」
「理由を聞いても良いですか?」
「雪見だからって言うのは理由にはならない?」
「寧ろ、どうしてそれが理由になると思ったんですか」
部屋に着いても僕はそれでも銀から離れなかった。
無情にも僕を引き剥がし、ソファに降ろした銀は近くに控えた。
「そりゃ雪見家は秘密主義だから。
それに、それのお陰で銀は、今も此処に居る訳だし?
でもそうだなぁ。
質問しなくても、雪見に必要な情報なら最低限僕にも入ってくるし。
蓮見や父様が言わないって事は、問題ないと思ってるからかなぁ?
まぁ、そもそも引き摺る様な問題は雪見家で管理されてるからねぇ」
銀は僕をジッと見つめる。
僕は身体から力を抜いてソファにだらり、と背中を預ける。
「…………凄いですね」
「ん?何が?」
「自分の家族に対する信頼が、ですよ」
「うーん、信頼と信用は違うんだけどねぇ。
銀は家族に頼ったりはしないのかな?
ほら、あの時だってさ。
弟君は近くに居た訳だし、協力し合っていれば銀は雪見家に来る必要もなかったと思うんだよねぇ」
まぁ、協力し合ってたらその弟が生きている保証は欠片も無いけど。
僕の言葉に銀は少し考え、伺う様に問い掛ける。
「……迷惑でしたか?」
「迷惑だと思った事は一度も無い。
ただ、時々不安になるだけだ」
「え、すみません」
「銀が謝る事じゃないから気にするな」
僕はそう言って銀からの視線を気にせず近くに置いてあった本を開き、蓮見の帰りを待つ。
蓮見、いつ帰ってくるんだろ。
