「まあ、きれいなお水がありますわ。飲めるのかしら」
キャサリンが駆け寄った池の縁には、大小数多くの発光キノコが密集して生えていた。キャサリンは気付いていなかったが、それらのキノコには無数のイモムシが取り付いており、キノコを盛んに食べていた。そのイモムシたちはアルカの市場で見た緑色の幼虫とは異なり、白い色をしていた。そしてキャサリンが近くに来ると、なぜかキャサリン目指して一斉に這い出した。
そんなことは思いもよらず、キャサリンは水面にかがみこむと、両手で水をすくって口に運んだ。と、その足元から無数のイモムシがキャサリンの体をわさわさ這い上がってきたのだ。
「きゃああ、なによ、なにすんのよ、この変態イモムシ! ちょっと、やめなさい」
キャサリンは驚いて立ち上がった。何匹かのイモムシは地面に落ちたが、まだ多くのイモムシたちがキャサリンの足元から続々と体を這い上がってくる。そして背負っているリュックサックの中に次々に頭を突っ込む。その様子を見た俺は言った。
「キャサリン、その虫はリュックの中のクッキーを狙っているんだ。キノコなんかより、よっぽど栄養があるクッキーを見つけて、イモムシが大興奮しているんだ。リュックは諦めて捨てた方がいい」
「いーやよ、絶対にいや。わたくしのクッキーを変態イモムシなんかに食われてたまるもんですか。お兄様、黙って見てないでわたくしの体からイモムシを取りなさいよ。わたくしは、イモムシは気持ち悪くて触れないのですわ」
触れないくせに平気で食べるんだな。まあ、カニは触れないけど食べるのは平気とかいう人もいるから、そんなものか。俺はイモムシに平気で触れるが、食べるのは無理だ。それより、これはキャサリンに恩を着せるチャンスである。ここで俺がキャサリンの体からイモムシを取ってやれば、感謝されるに違いない。
「よし、俺が取ってやろうじゃないか。待っていろ」
とは言ったものの、取っても取っても、イモムシが周辺のキノコから次々にやってくるのでキリがない。レイラやルミアナも加勢してイモムシを取るが、焼け石に水である。しびれを切らしたルミアナが言った。
「お嬢様、虫よけのポーションを掛けますので、すこし我慢してください」
ルミアナはポーションバッグから小瓶を取り出すとキャサリンの体に振り掛けた。するとイモムシがばらばらと地面に落ち、キノコの方へ這い戻って行った。
キャサリンが地面にへたり込んで言った。
「・・・はあはあ、ルミアナは本当に役に立ちますわね、このことはよく覚えておきますわ。それにくらべてお兄様は何の役にも立たないですわね。口ばっかりですの。このこともよく覚えておきますわ」
なんだよ、キャサリンに恩を着せるどころか、余計に評価が下がったじゃないか。
騒ぎが一段落したそのとき、広い空間のずっと奥の暗がりから巨大な影が近づいてきた。ワシャワシャという固い物体がこすれ合う不気味な音が徐々に強くなってくる。
「気を付けて、あっちから何かが近づいてくるわ」
ルミアナが指さした方向に、何かが蠢く。発光キノコの隙間から、体長十メートルはありそうな赤黒い大サソリが見えてきた。青白い光に照らされて光るキチン質の胴体には棘が並び、先端に毒針を持つ長い尾を立てている。サソリは一行を確認すると、強力な二本のはさみを振り上げて突進してきた。即座に大きな盾を構えてレイラが前に出た。
「お下がりください、私が食い止めますので、援護をお願いします」
ルミアナは素早く矢を放ったが、サソリの強固な外骨格に弾かれてしまう。そのまま直進してきたサソリを、レイラが鋼鉄の盾で正面から受け止める。鉄を打つ激しい衝撃音とともに、レイラの体がずりずりと後ろへ押される。右からサソリのはさみがレイラの顔面へ襲い掛かるが、剣を振り上げて弾き返した。
カザルがウォーハンマーを振り上げてレイラの横から突進する。
「おらあ、虫の分際で生意気な。食らいやがれ」
と、カザルの頭上から、サソリの毒針が矢のような速さで突き下ろされる。間一髪、カザルは横に転がると毒針の攻撃をかわした。
「あぶねえ、あぶねえ、人間を相手にするのと勝手が違うぜ。うかつに近寄れねえ」
ルミアナは続けざまに矢を放つ。だが分厚い殻に覆われたサソリの胴体に、矢はまったく刺さらない。俺はルミアナに言った。
「幻惑魔法を使えないのか」
「昆虫のような知性のない相手だと、精神系の幻惑魔法は効果がないのです。もしかすると陛下の火炎魔法なら有効かもしれません」
火炎魔法か、だが火炎魔法は、まだ完全に発動できるとは限らないし、また魔法に失敗したらどうしようか・・・。
レイラは執拗なサソリの攻撃を超人的な剣と盾の技でなんとか退けているものの、耐えるのが精一杯で、攻め手を繰り出すことができない。サソリは強力な力でレイラを押し続けており、このままではいずれ力が尽きてしまう。
カザルもウォーハンマーを振り回しながら隙を伺いつつ何度も踏み込もうとするが、そのたびにサソリは長い尾の毒針をカザルめがけて突き出してくるため、近づけない。
「くそ、いまいましい毒針め」
弓攻撃をあきらめたルミアナはポーションバッグを探っていたが、虫よけのポーションを手に取るとサソリの頭部に投げつけた。虫よけ程度でサソリを倒すことはできないが、頭に当たった瓶が割れて液体が広がると、サソリの動きが僅かに鈍くなった。
その瞬間をレイラは見逃さなかった。はさみに押さえつけられていた盾を放りだすと、捨て身で右前に踏み込んだ。そしてサソリの尾の付け根をめがけ、渾身の力を込めて剣で切り込んだ。しかし同時に、サソリの毒針も毒液を噴き出しながらレイラをめがけて振り下ろされていたのである。
閃光のごとく打ち込まれたレイラの剣は、一撃でサソリの尾を根元から切り落とした。しかしそれより一瞬早く、サソリの鋭い毒針がレイラの背中に突き刺さり、プレートアーマーの装甲を貫通して毒液が体内に注入された。
「ぐは・・・」
レイラの全身から力が抜け、視界が白くなる。
「アルフレッドさま・・・」
レイラはサソリの足元に崩れ落ち、プレートアーマーが激しく音を立てた。
カザルの顔が怒りで真っ赤に燃え上がった。
「このクソ虫が! 毒針のないサソリなんか、ゴキブリとおなじだぜ。叩き潰してやる」
カザルがウォーハンマーでサソリをメッタ打ちにする。その隙にキャサリンとナッピーがレイラをサソリの足元から引き離し、ルミアナが解毒のポーションをレイラの口から流し込む。俺は愕然とした。俺が火炎魔法による攻撃を一瞬ためらったことで、王国最強の戦士レイラを失ってしまうことになるのか。・・・もうこれ以上迷う必要はない。
俺は右手にありったけの魔法石を握りしめると、火炎がカザルに当たらないよう、サソリの側面に走った。そして右手の拳を前に突き出すと、魔法の絵文字を念じた。
<火炎噴射(フレイム・ジェット)>
轟音と共に俺の右手から巨大な深紅の炎がサソリの胴体へと放射される。地下の空間は夕焼けのごとく真っ赤に染まり、焼け付く炎の中でサソリは見る間に黒焦げになった。炎がやむと、すでにサソリはまったく動かなくなっていた。みんなが驚きのまなざしで俺を見た。
ウォーハンマーを両手に持ったカザルが、口を大きく開いたまま、ゆっくりと俺に振り返った。
「おお、すげえ・・・すげえぜ旦那! あやうく、あっしも黒焦げにされるところだったけどよ。おかげで、あのくそ野郎は一巻の終わりですぜ。は、ざまあみやがれ」
俺はレイラに駆け寄った。
「レイラ、大丈夫か、しっかりしろ」
レイラの体は全く動かなかったが、両目はうつろながら開いている。俺の顔を見ている。
「陛下、ご無事ですか・・・」
「私なら大丈夫だ、すべてレイラのおかげだ、何とお礼を言ってよいものか」
ルミアナは相変わらず冷静だった。俺を見て僅かに微笑んだ。
「レイラならご心配なく。私の解毒薬は超一級品です。少し休めば麻痺が取れて動けるようになります。ただし、しばらくは十分な力を出すことが難しいでしょう。それよりも陛下、私が見込んだ通り、陛下は火炎魔法の潜在能力がずば抜けているようですね。まだ初級魔法なのに、驚くべき威力でした」
レイラに大事が無くて本当に良かった。俺は心から安堵した。
キャサリンの嬉しそうな声が聞こえた。
「ちょっとみんな、これ食べれますわ」
いつの間にか焼け焦げたサソリの足をもぎ取り、中から肉を引っ張り出している。その横ではナッピーが飢えた犬のように、四つん這いでサソリの肉をむさぼっている。
「カニを焼いたような、おいしそうな臭いがぷんぷんするから、わたくし我慢できなくなって、足をぶったぎって食べてみましたわ。そしたらカニと同じ味がしておいしいですの。お兄様もこっちに来て食べましょう」
キャサリンは、すげえたくましいな。たぶん樹海に迷い込んでも、半年後に野生化して発見されるんじゃないか。野生のサルを部下に従えているかもしれない。
洞窟に閉じ込められてから半日以上が経過していた。焼いたサソリの肉という思わぬ食料が手に入ったので、ここで野宿することにした。ルミアナが調べたところ、洞窟に溜まっている水の安全性が確認できたので、安心して水を飲むことができた。
それにしても、こんな地底の奥底に、発光キノコの青い光に満たされた神秘的な空間があるとは誰が想像できただろうか。これはひょっとすると「観光名所」に出来るかも知れないな。近場には良い温泉も湧き出しているし。今はそんな余裕はないけど。
ルミアナとカザルが交代で見張りをするというので、俺は横になった。良く眠れなかった。坑道の中は日が差さないので時間がさっぱりわからない。
レイラが歩けるようになったので、出口を目指して再び歩き始めた。
キャサリンが駆け寄った池の縁には、大小数多くの発光キノコが密集して生えていた。キャサリンは気付いていなかったが、それらのキノコには無数のイモムシが取り付いており、キノコを盛んに食べていた。そのイモムシたちはアルカの市場で見た緑色の幼虫とは異なり、白い色をしていた。そしてキャサリンが近くに来ると、なぜかキャサリン目指して一斉に這い出した。
そんなことは思いもよらず、キャサリンは水面にかがみこむと、両手で水をすくって口に運んだ。と、その足元から無数のイモムシがキャサリンの体をわさわさ這い上がってきたのだ。
「きゃああ、なによ、なにすんのよ、この変態イモムシ! ちょっと、やめなさい」
キャサリンは驚いて立ち上がった。何匹かのイモムシは地面に落ちたが、まだ多くのイモムシたちがキャサリンの足元から続々と体を這い上がってくる。そして背負っているリュックサックの中に次々に頭を突っ込む。その様子を見た俺は言った。
「キャサリン、その虫はリュックの中のクッキーを狙っているんだ。キノコなんかより、よっぽど栄養があるクッキーを見つけて、イモムシが大興奮しているんだ。リュックは諦めて捨てた方がいい」
「いーやよ、絶対にいや。わたくしのクッキーを変態イモムシなんかに食われてたまるもんですか。お兄様、黙って見てないでわたくしの体からイモムシを取りなさいよ。わたくしは、イモムシは気持ち悪くて触れないのですわ」
触れないくせに平気で食べるんだな。まあ、カニは触れないけど食べるのは平気とかいう人もいるから、そんなものか。俺はイモムシに平気で触れるが、食べるのは無理だ。それより、これはキャサリンに恩を着せるチャンスである。ここで俺がキャサリンの体からイモムシを取ってやれば、感謝されるに違いない。
「よし、俺が取ってやろうじゃないか。待っていろ」
とは言ったものの、取っても取っても、イモムシが周辺のキノコから次々にやってくるのでキリがない。レイラやルミアナも加勢してイモムシを取るが、焼け石に水である。しびれを切らしたルミアナが言った。
「お嬢様、虫よけのポーションを掛けますので、すこし我慢してください」
ルミアナはポーションバッグから小瓶を取り出すとキャサリンの体に振り掛けた。するとイモムシがばらばらと地面に落ち、キノコの方へ這い戻って行った。
キャサリンが地面にへたり込んで言った。
「・・・はあはあ、ルミアナは本当に役に立ちますわね、このことはよく覚えておきますわ。それにくらべてお兄様は何の役にも立たないですわね。口ばっかりですの。このこともよく覚えておきますわ」
なんだよ、キャサリンに恩を着せるどころか、余計に評価が下がったじゃないか。
騒ぎが一段落したそのとき、広い空間のずっと奥の暗がりから巨大な影が近づいてきた。ワシャワシャという固い物体がこすれ合う不気味な音が徐々に強くなってくる。
「気を付けて、あっちから何かが近づいてくるわ」
ルミアナが指さした方向に、何かが蠢く。発光キノコの隙間から、体長十メートルはありそうな赤黒い大サソリが見えてきた。青白い光に照らされて光るキチン質の胴体には棘が並び、先端に毒針を持つ長い尾を立てている。サソリは一行を確認すると、強力な二本のはさみを振り上げて突進してきた。即座に大きな盾を構えてレイラが前に出た。
「お下がりください、私が食い止めますので、援護をお願いします」
ルミアナは素早く矢を放ったが、サソリの強固な外骨格に弾かれてしまう。そのまま直進してきたサソリを、レイラが鋼鉄の盾で正面から受け止める。鉄を打つ激しい衝撃音とともに、レイラの体がずりずりと後ろへ押される。右からサソリのはさみがレイラの顔面へ襲い掛かるが、剣を振り上げて弾き返した。
カザルがウォーハンマーを振り上げてレイラの横から突進する。
「おらあ、虫の分際で生意気な。食らいやがれ」
と、カザルの頭上から、サソリの毒針が矢のような速さで突き下ろされる。間一髪、カザルは横に転がると毒針の攻撃をかわした。
「あぶねえ、あぶねえ、人間を相手にするのと勝手が違うぜ。うかつに近寄れねえ」
ルミアナは続けざまに矢を放つ。だが分厚い殻に覆われたサソリの胴体に、矢はまったく刺さらない。俺はルミアナに言った。
「幻惑魔法を使えないのか」
「昆虫のような知性のない相手だと、精神系の幻惑魔法は効果がないのです。もしかすると陛下の火炎魔法なら有効かもしれません」
火炎魔法か、だが火炎魔法は、まだ完全に発動できるとは限らないし、また魔法に失敗したらどうしようか・・・。
レイラは執拗なサソリの攻撃を超人的な剣と盾の技でなんとか退けているものの、耐えるのが精一杯で、攻め手を繰り出すことができない。サソリは強力な力でレイラを押し続けており、このままではいずれ力が尽きてしまう。
カザルもウォーハンマーを振り回しながら隙を伺いつつ何度も踏み込もうとするが、そのたびにサソリは長い尾の毒針をカザルめがけて突き出してくるため、近づけない。
「くそ、いまいましい毒針め」
弓攻撃をあきらめたルミアナはポーションバッグを探っていたが、虫よけのポーションを手に取るとサソリの頭部に投げつけた。虫よけ程度でサソリを倒すことはできないが、頭に当たった瓶が割れて液体が広がると、サソリの動きが僅かに鈍くなった。
その瞬間をレイラは見逃さなかった。はさみに押さえつけられていた盾を放りだすと、捨て身で右前に踏み込んだ。そしてサソリの尾の付け根をめがけ、渾身の力を込めて剣で切り込んだ。しかし同時に、サソリの毒針も毒液を噴き出しながらレイラをめがけて振り下ろされていたのである。
閃光のごとく打ち込まれたレイラの剣は、一撃でサソリの尾を根元から切り落とした。しかしそれより一瞬早く、サソリの鋭い毒針がレイラの背中に突き刺さり、プレートアーマーの装甲を貫通して毒液が体内に注入された。
「ぐは・・・」
レイラの全身から力が抜け、視界が白くなる。
「アルフレッドさま・・・」
レイラはサソリの足元に崩れ落ち、プレートアーマーが激しく音を立てた。
カザルの顔が怒りで真っ赤に燃え上がった。
「このクソ虫が! 毒針のないサソリなんか、ゴキブリとおなじだぜ。叩き潰してやる」
カザルがウォーハンマーでサソリをメッタ打ちにする。その隙にキャサリンとナッピーがレイラをサソリの足元から引き離し、ルミアナが解毒のポーションをレイラの口から流し込む。俺は愕然とした。俺が火炎魔法による攻撃を一瞬ためらったことで、王国最強の戦士レイラを失ってしまうことになるのか。・・・もうこれ以上迷う必要はない。
俺は右手にありったけの魔法石を握りしめると、火炎がカザルに当たらないよう、サソリの側面に走った。そして右手の拳を前に突き出すと、魔法の絵文字を念じた。
<火炎噴射(フレイム・ジェット)>
轟音と共に俺の右手から巨大な深紅の炎がサソリの胴体へと放射される。地下の空間は夕焼けのごとく真っ赤に染まり、焼け付く炎の中でサソリは見る間に黒焦げになった。炎がやむと、すでにサソリはまったく動かなくなっていた。みんなが驚きのまなざしで俺を見た。
ウォーハンマーを両手に持ったカザルが、口を大きく開いたまま、ゆっくりと俺に振り返った。
「おお、すげえ・・・すげえぜ旦那! あやうく、あっしも黒焦げにされるところだったけどよ。おかげで、あのくそ野郎は一巻の終わりですぜ。は、ざまあみやがれ」
俺はレイラに駆け寄った。
「レイラ、大丈夫か、しっかりしろ」
レイラの体は全く動かなかったが、両目はうつろながら開いている。俺の顔を見ている。
「陛下、ご無事ですか・・・」
「私なら大丈夫だ、すべてレイラのおかげだ、何とお礼を言ってよいものか」
ルミアナは相変わらず冷静だった。俺を見て僅かに微笑んだ。
「レイラならご心配なく。私の解毒薬は超一級品です。少し休めば麻痺が取れて動けるようになります。ただし、しばらくは十分な力を出すことが難しいでしょう。それよりも陛下、私が見込んだ通り、陛下は火炎魔法の潜在能力がずば抜けているようですね。まだ初級魔法なのに、驚くべき威力でした」
レイラに大事が無くて本当に良かった。俺は心から安堵した。
キャサリンの嬉しそうな声が聞こえた。
「ちょっとみんな、これ食べれますわ」
いつの間にか焼け焦げたサソリの足をもぎ取り、中から肉を引っ張り出している。その横ではナッピーが飢えた犬のように、四つん這いでサソリの肉をむさぼっている。
「カニを焼いたような、おいしそうな臭いがぷんぷんするから、わたくし我慢できなくなって、足をぶったぎって食べてみましたわ。そしたらカニと同じ味がしておいしいですの。お兄様もこっちに来て食べましょう」
キャサリンは、すげえたくましいな。たぶん樹海に迷い込んでも、半年後に野生化して発見されるんじゃないか。野生のサルを部下に従えているかもしれない。
洞窟に閉じ込められてから半日以上が経過していた。焼いたサソリの肉という思わぬ食料が手に入ったので、ここで野宿することにした。ルミアナが調べたところ、洞窟に溜まっている水の安全性が確認できたので、安心して水を飲むことができた。
それにしても、こんな地底の奥底に、発光キノコの青い光に満たされた神秘的な空間があるとは誰が想像できただろうか。これはひょっとすると「観光名所」に出来るかも知れないな。近場には良い温泉も湧き出しているし。今はそんな余裕はないけど。
ルミアナとカザルが交代で見張りをするというので、俺は横になった。良く眠れなかった。坑道の中は日が差さないので時間がさっぱりわからない。
レイラが歩けるようになったので、出口を目指して再び歩き始めた。