ぼろアパートに住むワーキングプアだった俺は、ある晩、いつものように眠りについた。ところが朝になって俺が目覚めた場所は異世界だった。俺はいつの間にか、中世時代の国王アルフレッドになっていたのである。

 ミックという大臣から聴いた話では、どうやら本物のアルフレッド国王は何者かに毒を盛られて五日間も昏睡状態になっていたらしい。その間に、なぜか俺と意識が入れ替わってしまったようだ。こうして俺はアルフレッド国王になった。もちろん、このことは家臣たちには絶対に秘密である。

 アルフレッドの治めるアルカナ王国は衰退しつつあった。国家財政は危機的状況にあり、政情も不安定で、ジャビ帝国というトカゲ族からの侵略にもさらされていた。いつ国が滅んでもおかしくない状態だ。しかし俺は、現実世界では決して自らの手で成し遂げることのできないであろう「富国強兵」という大目標に挑戦することを決意した。

 アルフレッドにはキャサリンという金髪美少女の妹が居た。外見は可愛いが性格はS属性で、子供の頃は兄のアルフレッドをいじめて遊んでいたことが判明。しかしアルフレッドも妹にいじめられて、まんざらではなかったという、仲の良い変態兄妹だった。

 王国を立て直す上で、まずは王都アルカを視察して回ることにした俺は、城門の外に広がる巨大なスラムを目にした。生活に苦しむ大勢の貧しい人々に対して、市場で盗んだ食べ物を分け与えていたエルフの女性、ルミアナを助け、彼女を新しい仲間に加えた。ルミアナは弓と幻惑魔法を得意とするレンジャーだった。

 ルミアナの話によれば、魔法を使えるのはエルフだけであり、人間に魔法は使えないという。その話に落胆した俺だったが、せっかく異世界に来たにも関わらず、魔法が使えないことに納得できなかった俺は、後日、本当に俺に魔力がないか調べてもらうことにした。

 王国を立て直すヒントを探るため、次に王国農場を視察することにした。中世時代の中心的な産業は農業である。食料を増産できなければ、国を発展させることはできない。だがアルカナは雨が少なく、目立った川も流れていないことから農作物の不作に苦しんでいた。

 王国農場の視察の途中、大昔に流れていたらしき大きな川の痕跡を発見した俺たちは、その跡を辿って北へと向かった。そして遥か上流で東へ向かって流れる大河を目にした。それはアルカナ北部から隣国のエニマ国へと流れるエニマ川だった。

 現在は東の隣国へ流れるエニマ川だが、太古の昔には南のアルカナへ流れていたことを知った俺は、エニマ川に水門を建設して水を取水し、古い川筋に流すことで、アルカナに水をもたらす大河川工事を計画した。 

 だが財政難のアルカナ国政府には公共工事のためのおカネがなかった。金の産出量も少なく、金貨も発行できなかった。やむなく金貸しと国内の貴族からおカネを借りたが、金貸しに頼っていては国家事業を推進するうえで限界がある。俺は、いずれ王立銀行を設立せねばならないと痛感した。

 ルミアナとの約束通り、俺に魔力がないかどうかを魔力黒板で調べてもらった。すると人間にはないはずの魔力を俺が持っていることが判明した。俺は魔法が使えるのだ。だが、この世界で魔法を使うには、魔力だけでなく魔法素材と呼ばれる物質が必要であることがわかった。魔法素材の多くは貴重品であり、ルミアナも限られたものしか持ち合わせていなかった。

 エニマ川に水門を建設するに当たって、エニマ川が流れる先にある隣国エニマ国の了承を得る必要があると考えた俺は、エニマ国に向かった。その旅にお付きの護衛として同行したのが、女性の近衛騎士レイラだった。レイラは二メートルの長身で圧倒的な強さを誇る女戦士だが、性格が真面目すぎてガチガチだった。

 エニマ国では国王ハロルドの快諾を得たものの、皇太子マルコムがそのことに強く反発した。マルコムはアルカナ国を信用しておらず、自国を中心とする近隣諸国による統一国家の実現を望んでいた。

 エニマ国の了承を得た俺たちは、水門建設の現地調査へ向かった。その途中、巨大な猛獣ブラックライノの群れに襲われそうになったところを、居合わせたナッピーという小さなハーフリングの少女に助けられた。ナッピーは獣使いだった。ナッピーの協力でブラックライノに河川工事を手伝ってもらえることになった。

 河川工事の計画が一段落した俺は外交に目を向けた。王国の有力貴族であるジェイソンの勧めもあって、アルカナの西にある貿易国家ロマラン王国を訪問することにした。ロマラン王国ではレオナルド国王と親睦を深めると共に、乾燥に強いイモであるアカイモを譲り受け、食料増産のために王国農場で栽培することにした。

 ロマラン王国への親善訪問を終えた俺たちは、道すがら、アルカナ最西端の町ファーメンを視察することにした。だがその道中、ジャビ帝国の暗殺団と思われるトカゲ族の集団に襲撃される。この危機をルミアナの卓越した弓術とレイラの超人的な剣術パワーによって乗り切った俺たちは、負傷者を王都に返した後、ファーメンの町へと向かった。この襲撃の裏にいたのは、有力貴族ジェイソンだった。

 ファーメンは人気の高い蒸留酒の産地として有名だった。町の人々が用意してくれた歓迎の宴に参加した俺たちは心ゆくまで楽しんだが、酒を飲んでベロベロに酔っ払ったレイラが俺を追いかけ回すというハプニングに見舞われた。真面目すぎてガチガチだったレイラの別の一面が垣間見えた件であった。

 外国訪問から戻った俺は、周到な準備のうえ、いよいよ王立銀行をスタートさせた。もちろん、そうした新しい仕組みが社会に根付くには時間が必要だ。

 俺は宿敵であるジャビ帝国の情報を得るため、ロマランの南西に広がるジャビ砂漠にある、ナンタルという町に目を向けた。ジャビ帝国に属国化されていたナンタルに、スパイとしてルミアナとレイラを派遣することにしたのである。

 ナンタルの町では人間がトカゲ族の奴隷として働かされ、あるいは奴隷商品として売買されていた。宿屋に到着すると、何週間も風呂に入ることができなかったレイラは耐えきれず、夜中に川へ水浴びに出かけた。しかし武装を解除して水に入ったところをトカゲの奴隷商人たちに襲われる。素手による格闘術も身につけていたレイラはトカゲの奴隷商人を叩きのめし、逆に、ワニに食われそうになったトカゲを助けた。

 一方のルミアナは、潜入したジャビ帝国の総督府で偶然にレジスタンスの少年アズハルと知り合い、監獄に囚われている仲間を救出することになった。真夜中に下水道から潜入したルミアナとアズハルは仲間の救出に成功するが、脱出の途中でトカゲの衛兵たちの待ち伏せにあってしまう。その窮地に、ルミアナの後を付けてきたレイラが飛び込み、二人でトカゲの衛兵たちを倒して脱出する。これがきっかけで、ナンタルのレジスタンスが持っているジャビ帝国に関する情報網を利用させてもらえることになった。

 そしてついに水門の工事が完成し、アルカナに大河が復活した。王都アルカの人々は喜びに沸いた。俺はアルカナ川工事の成功のお祝いと、これまでの仲間たちへのねぎらいを兼ねて、王都の南にある温泉へ旅行することにした。仲間たちのほとんどは、温泉というものが初めてだった。女湯の露天風呂でくつろいでいたルミアナ、レイラ、キャサリン、ナッピーだったが、その様子を茂みに隠れてハゲ頭のドワーフが覗いていた。ドワーフはカザルという名前の中年男だった。

 覗きに気付いた女性たちが怒り狂ってドワーフを追いかけ回し、俺とミックがいる男湯に乱入する騒ぎになる。カザルは捕まり、反省して俺の部下になった。カザルが言うには、この近くの廃鉱山で特殊な鉱物を探す依頼を受けたのだという。俺たちは、その鉱物を探す手伝いをすることにした。だが、それは俺たちを廃鉱山に閉じ込めるための罠だった。

 カザルは膨大な借金を抱えてクビが回らなくなっており、借金返済のおカネを稼ぐために、俺たちを廃鉱山に監禁して身代金を要求する悪党たちの計画に参加していたのだ。ところがカザル自身も問答無用で廃鉱山に閉じ込められ、自らも罠にはめられたことを悟った。悪党は最初から全員を殺すつもりだったのだ。ジェイソンの陰謀だった。

 深く反省したカザルは、俺たちに協力して廃鉱山を脱出する方法を探すことになった。偶然にも、この廃鉱山は太古の昔、ドワーフたちが掘ったものだった。ドワーフ文字の読めるカザルが看板の文字などを解読することで脱出ルートが判明し、俺たちは鉱山の最下層へと向かった。

 最下層で俺たちを待ち受けていたのは、光るキノコに埋め尽くされた不思議な広い空間だった。美しい光景に見とれていた俺たちだったが、そこへ巨大なサソリの化け物が襲いかかってきた。その巨大サソリはルミアナの矢を弾き返し、レイラの怪力をもってしても撃退することができなかった。

 自分の魔法にまだ自信がなかった俺は、魔法の使用をためらった。だが、その間にレイラが巨大サソリの毒針を受けて倒れてしまう。もはや猶予はない。俺は渾身の魔力で火炎魔法を放ちサソリを倒した。幸い、ルミアナの解毒剤によってレイラは一命を取り留めた。最下層にたどり着いた俺たちは、何とか廃鉱山を脱出することができたのである。

 アルカナ川の完成と、同時に進めたたい肥の量産、そしてアカイモの栽培によって王国の食料生産は飛躍的に伸び、貧しい人々の飢えも解消された。王立銀行による紙幣の発行も順調にすすんでいる。アルカナの内政は順風満帆だった。

 だが、隣国のエニマ王国で大きな政変が起きた。クーデターである。かねてよりエニマ国を中心とする周辺諸国の統一国家樹立を目論んでいた皇太子マルコムが、大将軍のジーンと組んで国民を扇動し、国王ハロルドを退位に追い込んだのだ。そして自らがメグマール帝国皇帝であると宣言し、周辺諸国であるアルカナ王国、イシル公国、ネムール王国に対して、それぞれの国王が王位から退くことを求めたのである。

 いよいよ、戦乱の幕が切って落とされようとしていた。