「ねぇ、透夏。起きて」
日向の声が聞こえて目を開けると、日向が僕の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、寝坊?」
半分眠ったままの頭で慌てて答えると、日向がははっと笑ったのが見えた。
「ううん、今日は休みだよ。ごめんね、ちょっと聞いて欲しくて」
「聞いて?」
「うん。曲が出来たから聞いて感想教えてくれない?」
PCを開きながら言う日向を見て、思わず目を見開いた。
「曲作るの?」
「うん。大したものじゃないけどね」
「でも、すごいよ。聞かせて」
日向がEnterキーを押すと、ゆったりとしたビートの上に美しい旋律が紡がれていった。日向が創り上げた優しい光を放つ世界が、目の前に広がっていく。
「うわぁ...!」
曲が終わると、僕は日向に身を乗り出して大きな声を上げた。
「すごい、すごいよ日向!吃驚した!」
日向がはじけるように笑った。
「ありがとう、やっぱり嬉しいな、人に聞いてもらえると」
「日向、曲出したりしてないの?」
「出したいなとは思ってるんだけど...」
日向の横顔に、さっと影がよぎった。
「インターネットに投稿しても、どこかに持って行っても、なかなか駄目でね...」
そう言って笑いながら嘆く姿は、まるで迷い子のようだった。
「...大丈夫だよ、いつかきっと報われるよ、なんて無責任なことは言えないけど」
僕の言葉に、日向が此方を向いた。
「僕は、好きだな。日向が作った曲」
日向の目が大きく広がって、優しげに笑うのが見えた。
「...ありがとう」
朝日が窓から差し込んで来て、僕と日向は窓の方を見て目を細めた。
「ところでさ、透夏」
「うん?」
朝食の食パンを齧りながら声を掛けてきた日向の方に顔を向けると、もぐもぐと口を動かしながら日向が言葉を続けた。
「透夏、幾つなの?」
「17、だったと思う。日向は?」
「19」
「え、大学生?」
「ううん。大学行ってないよ。今はフリーターかな」
「そうなんだ」
僕がそう言うと日向は頷いたものの、どこか物思いに耽るようにその視線は虚空を彷徨っていた。
「ねぇ、透夏ってどこの出身か分かる?」
背の低いテーブルに置いたPCと睨めっこしながら、床に座った日向が僕に訊く。
日向は朝ご飯を食べながら唐突にそれが気になり出したらしく、食器を片付けるとすぐに質問してきた。
「分かんないんだよね。こんな都会の出身なのかどうかも、全然」
「都会、ね」
日向がごろりと床に寝転がると、正座していた僕の足をすり抜けて彼の頭がゴンと鈍い音を立てた。
「痛って!」
「あっ、ごめん」
僕が戸惑いつつそう言うと、透夏は悪くないでしょ、と頭をさすりながら日向が笑った。
「で、都会がどうしたの?」
僕がそう訊くと、起き上がった日向がPCを睨みながら言葉を続けた。
「都会に住んでる人って、あんまり『都会』って言葉使わないんだよね。高層ビルとかネオンの灯りとか、見慣れてるから『都会だ』なんて感想が出てこない」
「ふんふん」
「だからさ、透夏少なくとも、ここ近辺出身って訳じゃないんじゃない?」
日向の話にはよく筋が通っている。
たかが幽霊の超常現象に、理屈を求めすぎているとも言えるくらいだ。
「なるほどね、確かに」
でもさ、と僕が遠慮がちに続けると、日向も机に頬杖をついて、僕の言おうとしていたことを口にした。
「じゃあなんでこんな所にいるんだろう、ってところだろ?」
「う、うん」
「それが分かんないんだよなぁ。透夏の言動見るに、特に都会に憧れてて...って感じじゃなさそうだし」
「...都会怖い」
僕がしょんぼりしながらそう呟くと、日向は愉快そうに笑った。
「まぁ、ね。慣れるまでは怖いよね」
「...もしかして日向も、ここ出身じゃないの?」
「うん、もっと田舎の方出身かな」
「じゃあ、実は同じ出身地だったりして」
僕がそう言って笑うと、日向もありえる、と言って笑った。
日向の声が聞こえて目を開けると、日向が僕の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、寝坊?」
半分眠ったままの頭で慌てて答えると、日向がははっと笑ったのが見えた。
「ううん、今日は休みだよ。ごめんね、ちょっと聞いて欲しくて」
「聞いて?」
「うん。曲が出来たから聞いて感想教えてくれない?」
PCを開きながら言う日向を見て、思わず目を見開いた。
「曲作るの?」
「うん。大したものじゃないけどね」
「でも、すごいよ。聞かせて」
日向がEnterキーを押すと、ゆったりとしたビートの上に美しい旋律が紡がれていった。日向が創り上げた優しい光を放つ世界が、目の前に広がっていく。
「うわぁ...!」
曲が終わると、僕は日向に身を乗り出して大きな声を上げた。
「すごい、すごいよ日向!吃驚した!」
日向がはじけるように笑った。
「ありがとう、やっぱり嬉しいな、人に聞いてもらえると」
「日向、曲出したりしてないの?」
「出したいなとは思ってるんだけど...」
日向の横顔に、さっと影がよぎった。
「インターネットに投稿しても、どこかに持って行っても、なかなか駄目でね...」
そう言って笑いながら嘆く姿は、まるで迷い子のようだった。
「...大丈夫だよ、いつかきっと報われるよ、なんて無責任なことは言えないけど」
僕の言葉に、日向が此方を向いた。
「僕は、好きだな。日向が作った曲」
日向の目が大きく広がって、優しげに笑うのが見えた。
「...ありがとう」
朝日が窓から差し込んで来て、僕と日向は窓の方を見て目を細めた。
「ところでさ、透夏」
「うん?」
朝食の食パンを齧りながら声を掛けてきた日向の方に顔を向けると、もぐもぐと口を動かしながら日向が言葉を続けた。
「透夏、幾つなの?」
「17、だったと思う。日向は?」
「19」
「え、大学生?」
「ううん。大学行ってないよ。今はフリーターかな」
「そうなんだ」
僕がそう言うと日向は頷いたものの、どこか物思いに耽るようにその視線は虚空を彷徨っていた。
「ねぇ、透夏ってどこの出身か分かる?」
背の低いテーブルに置いたPCと睨めっこしながら、床に座った日向が僕に訊く。
日向は朝ご飯を食べながら唐突にそれが気になり出したらしく、食器を片付けるとすぐに質問してきた。
「分かんないんだよね。こんな都会の出身なのかどうかも、全然」
「都会、ね」
日向がごろりと床に寝転がると、正座していた僕の足をすり抜けて彼の頭がゴンと鈍い音を立てた。
「痛って!」
「あっ、ごめん」
僕が戸惑いつつそう言うと、透夏は悪くないでしょ、と頭をさすりながら日向が笑った。
「で、都会がどうしたの?」
僕がそう訊くと、起き上がった日向がPCを睨みながら言葉を続けた。
「都会に住んでる人って、あんまり『都会』って言葉使わないんだよね。高層ビルとかネオンの灯りとか、見慣れてるから『都会だ』なんて感想が出てこない」
「ふんふん」
「だからさ、透夏少なくとも、ここ近辺出身って訳じゃないんじゃない?」
日向の話にはよく筋が通っている。
たかが幽霊の超常現象に、理屈を求めすぎているとも言えるくらいだ。
「なるほどね、確かに」
でもさ、と僕が遠慮がちに続けると、日向も机に頬杖をついて、僕の言おうとしていたことを口にした。
「じゃあなんでこんな所にいるんだろう、ってところだろ?」
「う、うん」
「それが分かんないんだよなぁ。透夏の言動見るに、特に都会に憧れてて...って感じじゃなさそうだし」
「...都会怖い」
僕がしょんぼりしながらそう呟くと、日向は愉快そうに笑った。
「まぁ、ね。慣れるまでは怖いよね」
「...もしかして日向も、ここ出身じゃないの?」
「うん、もっと田舎の方出身かな」
「じゃあ、実は同じ出身地だったりして」
僕がそう言って笑うと、日向もありえる、と言って笑った。