「朝日が気持ちいいですわねぇ~」

 王様に詩を書いた翌朝。
 清々しい気持ちで、"言霊館 ver.シルヴィー"を開店した。
 相変わらず客は一人もいないけど、あたくしの心は軽い。
 昨晩、王様の病気は完全に治ったはずだ。
 だって、あんなに素晴らしくて美しい詩を書いたんだもの。
 治らないはずがないでしょう。
 昨日帰宅した王様は渡した詩を読み、無事に胸の病気が完治。
 王太子は至極感動し、あたくしへの想いを募らせる……。
 父を救ってくれた令嬢はどんな人なんだろうと。
 頭の中で妄想を膨らませていると、ドアベルがカランッと鳴った。
 王宮からの迎えが来た!
 猛スピードで扉を開ける。

「いらっしゃいませ、王様! その後、お加減は……なんだ、ルシアン様ですか」
「おい、なんでがっかりしてんだよ。せっかく来たやったのに」
「いえ、別に……」

 王様も王太子も宮殿の衛兵もおらず、いたのはルシアン様だった。
 見飽きた顔にテンションが下がる。

「相変わらず、客が一人もいねぇな」
「……嫌みでしょうかぁ? 減らず口なんて、二度と叩けないようにして差し上げましょうねぇ」
「ち、違うっ! そういうことじゃねえよっ! 王様来ねえかなと思ってさ!」

 握りしめた拳を見せつけたら、ルシアン様は怯えた様子で叫んだ。
 王様ねぇ……。
 きっと、あたくしの活躍に便乗して取り入ろうとしているのだ。
 調子の良さに辟易しちゃう。

「王様が来てもあたくしが話しますからね。ルシアン様は後ろで控えてくださいまし」
「ふざけんなよ。俺だって王様と話したいんだから。今度は俺が話す」
「ルシアン様と話すことなんて何もないと思いますわ」
「なんだとっ」

 二人でああだ、こうだ言い合っていると、店の外が慌ただしくなった。
 窓の外には、白と金の豪勢な馬車が見える。
 扉には太陽と月の紋章が……。

「「宮殿の馬車!」」

 あたくしとルシアン様は気持ちが昂ぶり、言い争いどころじゃなくなった。
 とりあえず、一時休戦ね。
 勢いよく扉が開かれ、何人もの衛兵が店に入った。
 すかさず、あたくしたちは姿勢を正す。
 リーダーと思われる衛兵が叫ぶように言う。

「シルヴィー嬢はいるか!」
「ここにおりますわ」

 見ればわかるでしょうが。
 ほら、さっさと王太子を出しなさいな。
 王様でもいいわよ?
 誰もあんたみたいな醜男には用がないのだから
 衛兵が放った言葉に、思わず身体の力が抜けそうになった。

「お前が詠んだ詩のせいで、王様は危篤になったんだぞ!」

 王様の……危篤?
 この人たちは何を言っているの。
 あたくしの詩で完治したはずでしょうが。

「は……はぁ!? 危篤ですって!? なによ、それ!」
「だから、胸の持病が急激に悪化したんだ! 宮殿直属の医術師と薬師が調べた結果、お前の詩が原因だと判明された!」

 衛兵の言葉は、なおもあたくしの心に突き刺さる。
 あり得ないが故に、強い衝撃を伴った。
 この人たちは嘘を言っているんじゃないかしら。
 そうよ、きっとそう。
 とても信じられない。
 混乱していたら、ルシアン様が衛兵に詰め寄った。
 
「おい、人の婚約者に好き勝手言ってんじゃねえよ。身の程を弁えろ、三流どもが」

 あら、ルシアン様にしてはなかなかやるじゃない。
 いつもの偉そうな感じが何倍にも増し、威圧感を放ちながら衛兵を睨む。

「誰だ!」
「ダングレーム家のルシアンだよ。俺を知らねえとはいい度胸だな」
「シルヴィー嬢は婚約者と言ったな! 貴様も来い! 将来、妻となる者の監督不届きだ!」
「は!? 何を意味のわからないことを言ってやがる! ……おい、やめろ!」

 あろうことか、衛兵たちはルシアン様も取り押さえる。
 数の差もあって、簡単に捕まってしまった。

「こいつらを宮殿に連れて行くぞ!」
「「はっ!」」

 そのまま、外の馬車に押し込まれた。
 あんなに乗りたかった馬車なのに、今では乗りたい気持ちなどまったくない。

「早く降ろしてよ! なぜ、あたくしがこんな目に遭わないといけないの!」
「俺はダングレーム家の長男だぞ! 今すぐ降ろせ! タダじゃすまさないからな!」

 あたくしたちの叫び声など聞こえないかのように、馬車はすぐさま走り出した。
 王様が危篤になった……しかも、あたくしの詩が原因なんて……そんなの嘘に決まっているわ。

 □□□

 王宮に着くと、わけもわからぬまま別棟の塔に連れて行かれた。
 灰色の無機質で殺風景な塔……。
 あそこは悪人が裁きを待つ収容施設じゃないの。
 どうして、あたくしたちが……。
 絶対に収容されてなるものですか。
 力の限り抵抗しようとしたとき、王宮前の広場から必死の声が響いた。

「王様はもう瀕死の状態らしいぞ! このままじゃ明日の夜明けが迎えるかわからない!」
「冒険者ギルドの魔法使いにもあたっていますが、回復魔法は難しいこともあり優秀な人材が見つかりません!」
「倉庫から全ての薬を持ってこい! 街で売っている薬も全部買い占めろ!」
 
 緊急事態とも言える切羽詰まった雰囲気に圧倒され、何も言えなくなってしまった。
 そこら中をたくさんの医術師や薬師が走り回り、明らかに平時ではない。
 使用人や衛兵に至るまで、誰もが慌ただしく駆け回る。
 あたくしもルシアン様も呆然としたまま、小さな収容部屋に入れられた。
 衛兵が小窓越しに話す。

「メーンレント王国に死罪はない。だが、国王の暗殺ともなれば話は別だ。建国以来、お前たちは初めての死刑囚になるかもな」

 淡々と言うと、衛兵は小窓を閉じた。

「お、おい……今の聞いたか……?」
「こ、国王の暗殺に……死罪……?」

 王様は本当に病気が悪化したのだ。
 昨日までは自分で歩けるほど元気そうだったのに。
 原因jはあたくしの詩ってこと?
 も、もしかして、あたくしたちは……。

 ――処刑されるの?

 その可能性に気づいたとき、急速に心臓がドキドキしてくる。
 冷や汗が流れ、呼吸は浅くなった。
 あたくしはもう、死の恐怖で身を震わすことしかできなかった。。
 そう思っていたら、いきなりあたくしの腕を掴んだ。

「今すぐ宮殿に来い!」
「いたっ! ちょっと、引っ張らないでよっ!」

 ぐいぐいぐいっと、有無を言わさぬ力強さで扉へと引っ張る。
 突然、麗しきレディの腕を掴むなんて、この醜男はどこまで失礼なの。
 しかも、周りの衛兵まであたくしを引っ張り出そうとする。
 いったい、何が起きているのよ。

「こら、抵抗するな! お前が書いた詩のせいで、王様は危篤状態に陥ったんだぞ!」