細身の体型なのに、私の身体を支える腕は力強い。
初めて身体がしっかりと接触して、やっぱりルイ様も男性なんだと自覚する。
図書室で見つめ合ったときより、さらに強く胸が高鳴った。
心臓がドキドキと拍動するも、不思議と不快な感じはない。
むしろ、胸が膨らむような心地よさを感じる。
ルイ様は何も言わず、固まったまま私を見るばかりだ。
さらに何かが始まりそうな予感がするも、緊張と驚きで私の身体は少しも動かなかった。
「支えてくださってありがとうございます。あ、あの……ルイ様……?」
おずおずと尋ねるも、ルイ様は微動だにしない。
ふと、動かない理由に気づいた。
――そ、そうか……。私を抱えているから魔法文字を書けないんだ。
ルイ様はお話される代わりに魔法文字を書かれる。
私を抱えているから、両手が塞がっているのだ。
がっしりと支えなれており、私は動こうにも動けなかった。
「自分で歩けますので、そろそろ……。ルイ様が疲れてしまいます……」
正直なところ、最近身体が重くなってきた……気がする。
お屋敷の料理がおいしいから、いつもたくさん食べてしまうのだ。
己の重さが伝わるのはだいぶ恥ずかしい。
しかしルイ様は無言で首を振ると、ひょいっと私を抱え上げてしまった。
すいすいと背中と足を持たれ、ルイ様の腕の中に収まる。
何やら不思議な体勢だけど、他者視点の姿を想像したら顔に火がついた。
――こ、これは、まさか……!
俗に言う……お姫様抱っこの形だ。
自分がそのようなロマンあふれる様式で運搬されるとは、今の今までまったく思わなかった。
おまけに、先ほどより己の重さが直に伝わる形式となってしまった。
地面から浮いて支えがないからね。
どっと顔が熱くなる。
今なら枯れ枝に火がつけられそうだ。
「あ、あの~、ルイ様……自分で歩けますので……どうか、荷降ろしのほどを……」
どうにか蚊の鳴くような声でお願いするも、またもや無言で首を振られてしまった。
私を抱えたまま、ルイ様は堂々とお屋敷へ歩き出す。
みんなを見ると、なんかワクワクしていた。
エヴァちゃんもアレン君もマルグリットさんも、大変に瞳が輝いている。
ガルシオさんは前足を顔に当て、隙間からこっそり私たちを見る。
いかがわしいことは何もしていないのですが……。
もちろん否定する暇もなく、私たちはお屋敷に向かう。
おそらくルイ様の無詠唱魔法で玄関が開き、ロビーを通り、荷降ろししてくれることはなく、自室へと運搬された。
そっとベッドに寝かせられると、空中に魔法文字が描かれる。
〔具合は大丈夫か、ポーラ〕
「は、はい、問題ございません。運搬……ではなく、運んでいただき本当にありがとうございました」
〔きっと、疲れが溜まっていたのだろう。申し訳ない、無理をさせてしまったな〕
「い、いえっ! 今日“久遠の樹”を癒したいと言ったのは私ですからっ!」
ルイ様はベッド近くの椅子に座り、私を気遣ってくれる。
疲れているのはたしかだけど、そのお心遣いが一番の薬になりそうだった。
しばし沈黙が流れた後、ルイ様が落ち着くような筆跡で魔法文字を書かれる。
〔君のおかげで、私の大事な樹が生き返ってくれた。またあの翠色の葉が芽吹く姿を見られるとは主会っていなかった。今は亡き両親も、天界で喜んでいるはずだ。ありがとう、ポーラ〕
「私の方こそ……ありがとうございました」
〔……ん? 何がだ?〕
お礼を伝えると、ルイ様は疑問そうな表情を浮かべた。
“久遠の樹”の治癒を任されてから、私はずっと心の中で感謝していた。
「【言霊】スキルを信頼してくださって……」
無事に“久遠の樹”が蘇ったのも、ルイ様が私を、【言霊】スキルを信頼して任せてくれたからだ。
自分が大切な人に信頼される事実は、何物にも代えがたい尊さと喜びを感じる。
かねてから感じていた感謝の気持ちをお伝えすると、ルイ様はフッと優しく微笑んだ。
〔当然だ。君の力を疑ったことは一度もない。これからも……私はポーラをずっと信頼し続ける〕
「ルイ様……。私も…………ルイ様をずっと信頼いたします」
素直な気持ちが紡がれる。
出過ぎた考えかもしれないけど、主人とメイドという立場より、一段と強い絆で結ばれたような気がしたのだ。
〔さあ、今日はもうゆっくり休みなさい。他の仕事のことは気にしなくていい〕
「わかりました。……おやすみなさい、ルイ様」
ルイ様は静かにお部屋から出る。
空はもうほとんどが濃い藍色となり、夜が訪れた。
ふぅっとひと息つくと、今日の出来事が思い出される。
――痛ましい“久遠の樹”を見て、ルイ様と一緒に詩を書いて……。
そこまで考えた時、ふと何かの気配を感じて窓の外を見た。
エヴァちゃん、アレン君、マルグリットさんが、窓枠からこっそりと顔を覗かせる。
ワクワクワク……と瞳が輝いていた。
それはもう大変に澄んだ目で美しく。
ガルシオさんはと言うと、前足で顔を隠しつつ、しっかりこちらを見ていた。
だから、いかがわしいことは何もしていないんですが……。
私とルイ様の関係について、みんなは諸々誤解しているようだ。
――早く誤解を解かなければ……。私とルイ様は別に……。
そう思いながらも、疲れがどっと出て夢の世界に誘い込まれてしまった。
初めて身体がしっかりと接触して、やっぱりルイ様も男性なんだと自覚する。
図書室で見つめ合ったときより、さらに強く胸が高鳴った。
心臓がドキドキと拍動するも、不思議と不快な感じはない。
むしろ、胸が膨らむような心地よさを感じる。
ルイ様は何も言わず、固まったまま私を見るばかりだ。
さらに何かが始まりそうな予感がするも、緊張と驚きで私の身体は少しも動かなかった。
「支えてくださってありがとうございます。あ、あの……ルイ様……?」
おずおずと尋ねるも、ルイ様は微動だにしない。
ふと、動かない理由に気づいた。
――そ、そうか……。私を抱えているから魔法文字を書けないんだ。
ルイ様はお話される代わりに魔法文字を書かれる。
私を抱えているから、両手が塞がっているのだ。
がっしりと支えなれており、私は動こうにも動けなかった。
「自分で歩けますので、そろそろ……。ルイ様が疲れてしまいます……」
正直なところ、最近身体が重くなってきた……気がする。
お屋敷の料理がおいしいから、いつもたくさん食べてしまうのだ。
己の重さが伝わるのはだいぶ恥ずかしい。
しかしルイ様は無言で首を振ると、ひょいっと私を抱え上げてしまった。
すいすいと背中と足を持たれ、ルイ様の腕の中に収まる。
何やら不思議な体勢だけど、他者視点の姿を想像したら顔に火がついた。
――こ、これは、まさか……!
俗に言う……お姫様抱っこの形だ。
自分がそのようなロマンあふれる様式で運搬されるとは、今の今までまったく思わなかった。
おまけに、先ほどより己の重さが直に伝わる形式となってしまった。
地面から浮いて支えがないからね。
どっと顔が熱くなる。
今なら枯れ枝に火がつけられそうだ。
「あ、あの~、ルイ様……自分で歩けますので……どうか、荷降ろしのほどを……」
どうにか蚊の鳴くような声でお願いするも、またもや無言で首を振られてしまった。
私を抱えたまま、ルイ様は堂々とお屋敷へ歩き出す。
みんなを見ると、なんかワクワクしていた。
エヴァちゃんもアレン君もマルグリットさんも、大変に瞳が輝いている。
ガルシオさんは前足を顔に当て、隙間からこっそり私たちを見る。
いかがわしいことは何もしていないのですが……。
もちろん否定する暇もなく、私たちはお屋敷に向かう。
おそらくルイ様の無詠唱魔法で玄関が開き、ロビーを通り、荷降ろししてくれることはなく、自室へと運搬された。
そっとベッドに寝かせられると、空中に魔法文字が描かれる。
〔具合は大丈夫か、ポーラ〕
「は、はい、問題ございません。運搬……ではなく、運んでいただき本当にありがとうございました」
〔きっと、疲れが溜まっていたのだろう。申し訳ない、無理をさせてしまったな〕
「い、いえっ! 今日“久遠の樹”を癒したいと言ったのは私ですからっ!」
ルイ様はベッド近くの椅子に座り、私を気遣ってくれる。
疲れているのはたしかだけど、そのお心遣いが一番の薬になりそうだった。
しばし沈黙が流れた後、ルイ様が落ち着くような筆跡で魔法文字を書かれる。
〔君のおかげで、私の大事な樹が生き返ってくれた。またあの翠色の葉が芽吹く姿を見られるとは主会っていなかった。今は亡き両親も、天界で喜んでいるはずだ。ありがとう、ポーラ〕
「私の方こそ……ありがとうございました」
〔……ん? 何がだ?〕
お礼を伝えると、ルイ様は疑問そうな表情を浮かべた。
“久遠の樹”の治癒を任されてから、私はずっと心の中で感謝していた。
「【言霊】スキルを信頼してくださって……」
無事に“久遠の樹”が蘇ったのも、ルイ様が私を、【言霊】スキルを信頼して任せてくれたからだ。
自分が大切な人に信頼される事実は、何物にも代えがたい尊さと喜びを感じる。
かねてから感じていた感謝の気持ちをお伝えすると、ルイ様はフッと優しく微笑んだ。
〔当然だ。君の力を疑ったことは一度もない。これからも……私はポーラをずっと信頼し続ける〕
「ルイ様……。私も…………ルイ様をずっと信頼いたします」
素直な気持ちが紡がれる。
出過ぎた考えかもしれないけど、主人とメイドという立場より、一段と強い絆で結ばれたような気がしたのだ。
〔さあ、今日はもうゆっくり休みなさい。他の仕事のことは気にしなくていい〕
「わかりました。……おやすみなさい、ルイ様」
ルイ様は静かにお部屋から出る。
空はもうほとんどが濃い藍色となり、夜が訪れた。
ふぅっとひと息つくと、今日の出来事が思い出される。
――痛ましい“久遠の樹”を見て、ルイ様と一緒に詩を書いて……。
そこまで考えた時、ふと何かの気配を感じて窓の外を見た。
エヴァちゃん、アレン君、マルグリットさんが、窓枠からこっそりと顔を覗かせる。
ワクワクワク……と瞳が輝いていた。
それはもう大変に澄んだ目で美しく。
ガルシオさんはと言うと、前足で顔を隠しつつ、しっかりこちらを見ていた。
だから、いかがわしいことは何もしていないんですが……。
私とルイ様の関係について、みんなは諸々誤解しているようだ。
――早く誤解を解かなければ……。私とルイ様は別に……。
そう思いながらも、疲れがどっと出て夢の世界に誘い込まれてしまった。