俺は決して裕福とは言えない家庭で育った。
緑豊かでいかにも田舎って感じの村だ
家は木造建てで大きいとは言えない。
いや、むしろ小さい。庭の方が広い。
それでいうとこの村全体が庭みたいなもんだ。
田舎というのはそういうもんだ。
そんな小さな村で、ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
それが俺である。

額に傷を付けた金髪で筋肉質ないかにも戦士というような顔をした男が、赤ん坊を抱いている。
どこかぎこちない様子で。

「ォギャーオギャー」
「おーよしよし、いい子だぞ~」

そしてそれを見た胸が大きく、笑顔が似合う、まさに声色から優しさが滲みでている茶髪の女性が、
男から赤ん坊を奪い取り仕方ないわねと赤ん坊をあやしている。

「ほらほら~泣かないでね~。
この子はどっちの才能を持つのかしら」

「そりゃ俺の子だ!きっと剣術だろう」
「私は皆を笑顔にしてくれるヒーラーがいいわ~」

両親は冒険者だった。
父の名前はガーフィ・シーネット
母の名前はアリア・シーネット
父は剣術の才能に恵まれ、母は回復魔法の才能に恵まれた。
2人は同じパーティ仲間だったらしい。
そんな2人はいつしか結ばれ俺が生まれた。
当然両親は期待した。剣術か魔法か。
才能が発覚するのは5歳児くらいからといわれている。
くらいからと言うのは、厳密に決まっていないからである。
その差は前後し、遅いものは14歳で発現するものもいるとか。そして、15歳になっても発現しないものは『持たざる者』として一生を生きることになる。
『持たざる者』はそこまで多くは無い。
それ故に、『持たざる者』は生きづらい世の中である。
中には『持たざる者』に対して差別する村もあるとかないとか。


そしてくる
-俺が初めて回復魔法を使った日。

「せい!はぁ!」

ある日父はいつもの様に、庭で素振りをしている。
この光景も何度見た事だろう。
父はかつて冒険者として有名ギルドに属していた。
どうやらその中でもA級に居たとか。
冒険者にはランク付けがされている。
SS級~G級までだ。
SS級は現在勇者達が持っている等級。英雄の称号だ。
時点でS級。S級は国の特別なクエストを請け負う等級。
ただし、S級は決して多くない。
これも実力はもちろん特別な試験があるとか。
そしてA級。A級は才能さえあれば努力次第でなれる等級。
中にはS級に近い実力を持ったA級も居るらしい。
そんな俺の父はA級だった。
俺の生まれ育った村では唯一のA級とのこと。
そして母はC級。C級は平均的な能力とされている。
母は才能はあるがヒーラー故にこの等級だ。
ヒーラーは支援魔法や回復魔法とパーティには欠かせない存在ではあるが、クエストによって活躍はピンキリである。
故に評価しづらい職とされている。

「ねぇ父さん、僕にも剣を教えて!」
「くるな!危ないっ!!」

俺はその時、真剣で素振りをしている父に近づいてしまった。

「わぁっ!」
「いっ…危ないだろう!!」
「ご、ごめんなさい父さん」

どうやら父は咄嗟の所で剣を止めようとし、
自分の足を誤って切ってしまった。

「大丈夫?父さん」
「…ああ、大丈夫だ。それよりも危ないから俺が剣を振っている時は来るんじゃない。分かったか?」
「…はいごめんなさい」
「よし!いい子だ」

父さんはいつもはおちゃらけた人だが、
怒る時は怒る。

「どうしたの!?」

俺たちの騒いでいる声が聞こえたのか、
家の中で家事をしていた母さんが慌てた様子で、
家から出てきた。

「あなた大丈夫!?今傷を治すからじっとしてて!」
「これくらい大丈夫だ心配するな」
「…父さんごめんなさい……」

俺はこの時、父の怪我した足に両手で触れた。
特になにか考えていたわけではない。
ただ、痛そうだったので触れただけだ。

「ああ、まさか、そんな……」
「あら!」

父の足の傷は完全に塞がっていた。
傷の痕跡すらない。

「あなた!見た!?この子回復魔法の才能があるわ!」
「…ああ、そうみたいだな」
「なぁに?嬉しくないの?」
「いや、嬉しいさ。だが才能は複数持つことは無い。
剣術の道はもう無くなったと思ってな」
「……才能があるだけいいじゃない。世の中には才能が欲しくても才能を持たない子だっているのよ」
「…それもそうだな」
「ねぇ父さん、母さん、それって凄いの?」

「ええ、凄いわ」
「ああ、凄いぞ」

こうして俺は5歳で人生初の魔法を無意識に使った。