時は少し遡る。



エルザが騎士団入団を命じた

「ええ!なんで?!」
「……意味わかんないよ」

俺とレイラはどうやら騎士団入団を命じられたらしい。
そのあまりの急すぎる展開に俺たちは動揺する。

「私は1度決めたことは覆さない!故に君たちが騎士団に入団することは決定事項だ!」
「いや、そもそも理由を教えてよ」
「……うん」
「ああ!そうだ!忘れていた」

この王女は本当になにがしたいんだろう。

「理由は3つ-」

と、三本指を立て長々と話し始めた。

「まず1つ。私は外に出たい。城は窮屈でたまらん」

なんだよ、ただの私情かよ。
てかそれ俺たちが騎士団に入団するのに関係あるのか?
俺達いなくても外に出てんだろと言いたいところを我慢した。後ろにメイドが居たからだ……。

「2つ。レイラのいう怖カッコイイヒーローを見つけたい。その為には目撃者であるレイラと行動を共にする必要がある」

これはちゃんとした理由だった。
確かに俺もその人物が気になっていた。
だが、まだそれだけでは俺たちは納得できない。
なぜなら俺たちはこの国の騎士団になりにきたのではないのだから。

「そして3つ。せっかく友が出来たのだ!友達と一緒に冒険をしたいじゃないか!」

声高らかにそう宣言するエルザ王女。
3つ中2つが王の私情であった。
そんな高らかな声を聞き付けたのか、
王室の大きな扉が開き1人のメイドが入ってきた。

「いけません!!エルザ様!これ以上、王に外に出られると私達も困ります!仕事が……なにより団長に怒られるんですぅぅぅうぇぇぇぇぇぇん」

いきなり入ってきて泣き出すメイド。

「なんだパパのことか。大丈夫だ。私から言っておく。パパは私の言うことは守るからな!怒るなと言っておく!心配するな!」
「それいつも言ってますけど、全然意味ありませんからぁ~」

また泣き出すメイド。
やはりエルザは度々無断で外出しているみたいだ。
すると今回もそうなんだろう。
外出のプロだな。何回も抜けられるってメイド達のセキュリティが悪いのか、エルザの忍び能力が高いのか。
なんにせよメイドからすると迷惑な話だろう。

「えっと…団長ってエルザの父さん?」
「ああそうだ!エルフォード・スタイリッシュ。それが騎士団団長であり私のパパだ!」

驚きの事実なのは間違いないのだろうが、
メイドが泣いているし、そのメイドを宥めるレイラに、
「お構いなく大丈夫ですいつものことですから」と他のメイドがその泣いているメイドを分かる分かる…と共感し宥める。
はっきり言って現場はめちゃくちゃだった。


「ふむ、少し騒がしいな」
「誰のせいだよ」
「誰だ?」

お前だよ!とツッコミたくなるがメイドがいるから俺はあえてそれ以上何も言わなかった。

「さて、どうだ?納得したか?」
「納得は…できない」
「それはなぜだ?」
「理由は3つ」

俺もエルザが提案してきたように3つに分けて理由を話してやることにした。

「1つ。僕は騎士団に入団しに来たんじゃない。母の呪いを解くために『解呪の才能』を持つものを探しているから」

そして続ける。

「2つ。僕はまだ12歳、レイラは13歳だ。冒険者になれるのは15歳から。冒険に出ることはできない」

そして再び続ける。

「そして3つ。僕はヒールしか使えない。だから騎士なんて器じゃない」

言ってやった。
これは全て本当のことだ。
冒険者になれるのなら俺たちは既に冒険者になっている。
しかし、年齢の都合上なれないからこそ冒険者ではなくあくまで『旅』として人探しをしている最中なのだ。
それを騎士団に入団?冒険者ですら年齢制限があるのに、騎士団入団は年齢制限がないのか?と思った。

「なるほど…アスフィ、君の言い分は承知した。…だが残念だな!先も言ったが私は1度言ったことは覆さない!!」
「な!!?」

エルザは話が通じないやつだった…。

「それに1つ目の話だが、騎士団に入団するメリットがある」
「それはなに?」
「強くなれる。君たちはまだ弱い。少なくとも私より。レイラは騎士団の騎士たちと同等かそれ以上かもしれない。
だがそれでも私より弱い」
「……」
「なんだ?レイラ悔しいか?」
「……べ、別に」

レイラはどうやら気に入らないような顔をだ。
しかし、場をわきまえているのかそれ以上言葉を発さない。

「それに、騎士団に入れば母親の件も探しやすいだろう。騎士団に入れば私とクエストに同行することが出来るし、先も言ったが私の耳にはこの国の全ての情報が入ってくるからな!なにか情報が入れば君に伝えると約束する」

エルザは自信満々に言い放った。
確かにそれは一理ある…。

「そして、2つ目だが確かに冒険者には15歳からという年齢制限がある。騎士団も同様に15歳という制限がある…だが-」

そしてエルザは再び椅子から立ち上がり両手を大きく広げ言い放った。それは今までの話なんてどうでもよくなるくらい大きな発言力。王女エルザ・スタイリッシュにしか発せない言葉だ。


「「そんなもの私の王の権力でどうにでもなる!!!!!」」


無駄に広い王室が一気に静まり返った。


「………それはもう反則じゃん」
「なんとでもいうがいい!!ハッハッハ!!」

その後最後の3つ目についてエルザは言及した。

「最後の3つ目だが、ヒールのみと言ったな」
「ああ」
「なら私を治療してみろ」
「なにを言って-」



ドサッ



エルザの左腕が落ちた。
左腕から大量の血が地面に垂れ流しになっていた。
エルザはあろうことか自ら左腕を剣で切り落とした。
とても正気とは思えない行動に一瞬場が静まり返る。
そして-

メイド達は悲鳴をあげる。
レイラはなにかのトラウマが読みがったのかうずくまって、
口を押えていた。

「おい!なにしてるんだよ!!!」
「こ、これを治してみろ」
「何を言って-」
「早く……してくれ…さすがの私もこの状態が続けば死んでしまう。この王室に『ヒール』を使えるものはいないのだ」
「だったらなんで……」
「私はお前の回復の力を信じているから…」

そう言ったエルザは片足をつき右手で左腕を抑えていた。
足元には大量の血。このままでは本当に死んでしまう。

「バカやろう!!」

俺はエルザの元に駆け寄り、
落ちている左腕を拾い上げ切れた部分に繋げるように……

『ヒール』…じゃだめそうだな。
しかし落ちた左腕を治すなんてそんなことが出来るのだろうか。俺はそんなことを考えていた。初めての出来事に俺も動揺が隠せなかった。

「『ハイヒール』」

エルザの左腕があわい光で包み込まれた。
そして-

「……ふぅ、助かった。ありがとうアスフィ」
「…助かったじゃねーよ!!お前バカなのか!!?俺が切った左腕を治せるなんて保証どこにもないのになにしてんだよ!!馬鹿だよ!お前は大馬鹿者だよ!!!」

俺は言葉遣いがいつもより乱暴になっていた。
俺の怒声は王室に響き渡っていた。
俺が王女を怒鳴りつける声にメイドは…怒らなかった。
メイドも同じくそう感じていたからだろう。
今はメイドたちも安堵している。
失神している者、泣き崩れている者、何かを唱えている者。
レイラはまだ口を押えてうずくまっていた。
俺は怒りが収まらなかった。

「本当にすまない。いや、本当だ。許してくれ。
……こうして人に怒られたのは何年ぶりだろうか…」
「……いやこっちこそすまん。でももう二度とこんなことするな」
「ああ、分かった。誓うよ」

こうしてエルザの奇行もとい、時間にして3分のショッキングな出来事は終了した。



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「しかし、アスフィ。やはり君猫を被っているな?」
「どうゆうことだよ」
「アスフィ君、『僕』じゃあなかったのかい?」
「!!」
「いやいや、別に君の勝手だ。好きにしてくれて構わないさ!」
「……アスフィ怖かった」
「ごめん、レイラ」

レイラに『ヒール』をかけてあげた。
何とか落ち着いたみたいだ。良かった。

「君の『ヒール』は傷を癒すだけじゃないのか」
「そうだよ。でもだからってもうあんなことは-」
「しないしない、さっき誓っただろ?」

俺は正直トラウマになりかけていた。
この場にいる全員がきっとそうだ。ショッキング過ぎた。
こいつ、エルザは良い奴だそれは間違いない。
しかし、なにをしでかすか分かったもんじゃない。
メイドの日々の苦労が伺える。

「……騎士団入団の件。分かった」
「本当かい!?正直迷惑を掛けてしまったから強制するつもりはなかったんだが…」
「エルザを野に放つ訳には行かない」
「……私を魔獣かなにかと勘違いしているのか??」
「魔獣の方がまだマシだよ」
「ヒドイな!!?」

まあそんなのは建前だ。
本当の理由は-

「レイラを強くしてやってほしい。自分の身を守れるくらいに」
「……なるほど。それはもちろんだ」
「……アスフィ」

俺はまだまだ弱い。
今の俺はきっと魔物や魔獣が出てもレイラを守ることは出来ないだろう。怖カッコイイヒーローが来てくれない限り。
母の件を解決するためにも、レイラにはもっと強くなって欲しい。

「レイラをドラゴンが出ても自分の身を守れるくらいに強くしてやってくれ」
「……善処しよう」
「約束だ」
「ああ!…だが、君はどうする?」
「俺は騎士なんて器じゃない。剣の才能がある訳でもないし」
「イヤ」

ここでようやくレイラがいつものレイラに戻った。

「アスフィが騎士団に入らないなら、レイラも騎士団に入らない!」

そう我儘なんだようちのレイラは。
だけど、その気持ちは嬉しいものだ。

「そう言われても、僕は剣の才能ないしなぁ」
「……師匠の言葉忘れたの?」

ああそういえば言っていたな。
「ヒーラーといえど自分の身は自分で守れるに越したことはないだろう」…だったか。
確かに忘れていた。ココ最近色々あったし何だか昔の出来事のようだ。まぁ実際あれ初めて言われたの5歳の頃だったしなぁ。
昔と言えば昔だな。

「今思い出したよ…分かった。僕も入団する」
「ありがとう!ではこれからよろしく頼む!
アスフィ・シーネット、レイラ・セレスティア!」

こうして俺たちは騎士団に入団することになったのだ。



「そういえばエルザって何歳なの?」
「私か?私は15になるな」
「そうなんだ……って3つしか変わんねぇのかよ!!!」
「うん?そうだが、私を一体いくつだと思っていたんだ?」

エルザは妙に大人っぽかった。
この世界では15歳から大人だ。
つまり大人になったばかりということだ。
それにしてももっと上だと思っていた。
エルザは背丈が高く、スタイルもいい。
胸はレイラの方があるが決して引けを取らないくらいにはある。

「じーーーー。」
「どうした?私の胸になにかついているか?」
「いや、別になにもついてないよ」
「…………アスフィのえっち」

この一件で俺たちは出会った時より仲良くなった。
この一件という言葉で片付けられるような出来事ではなかったかもしれない。あまりにも衝撃的な出来事だ。
だが、お互いがどんな人物なのかはだいたい把握することが出来た。今はそれだけで十分だろう。


この後、『エルザ片腕切り落とし事件』
を聞きつけたエルザパパがやってきた。