次に目覚めた時おれは柔らかいものと、
柔らかいものに上下から挟まれていた。

「うぷ」
「アスフィっ!!起きた!?」
「レイ、ラ?大丈夫?」
「うん!それよりアスフィこそ大丈夫なの!?」
「え、なにが?」
「覚えて……ないの?」
「えーっと、うん……あッ!!ハンベルは!?」
「……死んだよ。ほらあそこ」
「…レイラがやったの?」
「……なんかね。ヒーローがレイラ達を助けてくれたよ。凄くかっこよかったけど…それ以上に怖かった」
「そうなんだぁ…でもレイラが無事でよかったよ!」
「レイラもアスフィが無事でよかったよ」
「……なんだか僕疲れたからもう少しこの気持ちよさ味わっててもいい?」
「……今日だけ特別だよ」

その後、俺はレイラの膝の上で少しの睡眠を取った。

ーーー

「さて、ミスタリス王国に向かうかぁ」
「もういいの?」
「うん!ありがとうレイラ!お陰で元気になったよ色々と!…またお願いしてもいい?」
「…ダメだよ?」
「だよねっ!!!!」

俺たちは騎士団の死体をそのままにし、
ミスタリス王国へと再び足を動かすことにした。
あいつらのせいで少し距離が遠くなってしまった。
とはいえ、行くしかない。

「やぁ君たちこんなところでなにしてるんだい?」
「またお前らか!!?」
「お、おいおい!敵意を向けないでくれ!…私はミスタリス王国騎士団副団長のエルザだ。エルザ・スタイリッシュだ!」

馬に乗っていた女騎士は馬からおり、
騎士団の称号と一例を魅せ本物だと主張した。
確かに『盗賊(あいつら)』とは鎧の質や気品が違う。
金髪のロングヘアーに光沢のある銀色の鎧。
その左胸には2つの剣が交差する紀章が着いている。


「こ、今度は……本物…だよ……ね?」

レイラは人見知り…いや、今度は本当に怯えていた。
体が震えていたのだ。無理もない。
さっき起きたばかりだからな。

「…うーむ、なるほど。君たちは相当怖い思いをしたようだ。大丈夫だ。私は本物だ、安心してくれ」

とエルザは「ほら」と紀章を見せてきた。
それを見せられても俺たちには本物か確かめる術がないのだが。だが、俺は確かに本物だと心で感じた。

「本物…みたいですね」
「信じてくれてありがとう!良ければ君たちの名前も教えてくれないか?」
「僕の名前はアスフィ・シーネットです」
「レ、レイラ・セレスティア……です」
「そうか!アスフィと、レレイラか宜しくな!」
「違います…レイラ…です」
「ああ、レイラか!すまない!!この通りだ!!」

腰を曲げ謝ってくるエルザ。
後に知ったことだが、このエルザ。正直者で結構有名人らしい。

「だ、大丈夫です…」
「……にしてもシーネットか…どこかで聞いたような??」



「なるほど、それは怖かったな!私を見て怯えるのも無理もない。もう少し私が駆けつけるのが早ければそんなことにはならなかったのだが…」

俺たちはエルザの馬に乗せてもらいながら、
さっき起きた出来事を話していた。

「でも、相手は6人でした。エルザさんでも流石に無理じゃないですか?」
「それはどうかな?その6人を倒した…えっと、
怖カッコイイヒーローが勝てたんだろう?なら私も勝てるさ!」
「ど、どうしてそんなに自信があるん…ですか?」
「……なぜなら私はミスタリス王国で1番強いからなっ!!」
「それにしてもこの馬白くてかっこいいですね」
「そうだろう?名をパトリシアという!仲良くしてやってくれ」

この人は頼れる人だ。
俺とレイラは心からそう感じた。





---

「着いたぞ!ここが我らのミスタリス王国だ!」
「で、でけぇ~」
「そう…だね…」

俺とレイラは見上げていた。
まだ門の前なのに田舎育ちの俺たちは、既に興奮が収まらなかった。

「っ!!」
「エルザ副団長!お疲れ様です!」
「うむ、くるしゅうない」
「は、はい!…ところでそちらの子供達は?」
「私の客人だ。丁重に扱うように!!」

「「はいっ!!」」

2人の門番らしき人物は俺たちに一例し、
俺たちが見上げるくらい大きな門を開けてくれた。

そこに広がっていたのは俺たちが初めて見る光景だった。
噴水があり、着飾った人が大勢いる。
左右には大きな石造りの建物があり、
そしてその中央には門の外からでも見えていた大きな城があった。白の頭頂にはエルザの紀章にもあった剣が交差したシンボルの旗が掲げられていた。

「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「すごぉぉぉぉぉぉぉぉ」

田舎育ちの俺とレイラはほとんど同じ感想だった。

「ハッハッハ!そうだろう!ミスタリス王国はそれなりに栄えている街だからな!」
「…僕たちの町というか村がしょぼく見えます…」
「だね…」
「そんなことは無い!あの辺は空気が美味い!城の中にずっと居るより遥かに気持ちがいい!!」
「そうなのかな」
「そうとも!!そうだ、君たちの目的を聞いていなかったな」
「…僕達人探しをしているんです。母が病で-」



「なるほど。なら城で王に聞いてみるといい」
「え?いきなり王様ですか?」
「お、王様に…あ、あ、会うのはちょっと…」

レイラはものすごく緊張していた。
いや、俺も流石に王様に会うのはちょっと。
そんな気持ちで来て居ないし…。

「そう身構えるな!王は話のわかる人物だ!それに王の耳にはこの王国の全ての情報が入って来る…あ、もちろんプライベート以外ね!」

エルザは嘘は良くないと思い要らぬ言葉を付け足した。

「うーん、ならいってみようかレイラ」
「…アスフィがいくならレイラはついてくよ」
「決まりだな!…にしても君たち仲がいいな!結婚するのか?」
「…」
「…」
「…すまない!私は空気が読めないみたいでな…では城に向かおう!」

エルザの案内の元俺たちは街の中央にある大きな城に向かうことになった。その道中色んな人に声をかけられるエルザ。出会った街の住人からは、

「エルザさん!今日もお疲れさんっ!」

またある着飾った、恐らく貴族と思われるような者からは、

「これは、エルザ様。今日もお疲れ様です」

立場によってどうやら挨拶が違うらしい。
城に向かうまでの道中でこのようなやり取りが何十回も続いた。後ろからついて歩いていた俺たちは気まづくて仕方なかった。
「あ~ども~」

と軽く会釈をし、誰だコイツと思っていそうなそんな表情をされる俺と、

「……」

無言で俯きながら歩くレイラ。
人見知りはしばらく治りそうにないな。
大人になったら治るんだろうか。
大人になった俺は結果が分かっているが。

「すまないな、私はいつも声をかけられるんだ」
「いえ、レイラが萎縮しているくらいなので大丈夫です」
「それは大丈夫なのか?!」
「……」
「はい!平常運転です!」

と返す俺。
俺とエルザは大分仲が良くなった気がする。
友達になれそうだ…そうだ友達申請してみよう!

「エルザさん!僕たち友達になれませんか?」
「ん?もちろん!私は既に友と思っていたが?」
「あ、ありがとうございます!嬉しいです!」
「友達記念といっちゃなんだが、その堅苦しい話し方は辞めないか?私はあまりその堅苦しい話し方が好きではなくてな」
「わか…ったよ。エルザ」
「うん!それがいい我が友アスフィ!そしてレイラよ!」
「……ぁりがとう」

レイラは消えそうな声でお礼を言っていた。

ーーー

「着いたぞ!ここがミスタリス王国の城であり砦だ!」

改めて目の前にすると本当にでかい。
俺たちの家なんかと比べ物にならない。当たり前だが。
まさに王城というにふさわしい大きさと威厳ある建物だ。

「で、でででは、入ろうエルザ!」
「うむ!」
「本当にでかぃ……」

「お帰りなさいませお嬢様」
「うむ!」
「あ~ども~」
「…」

相変わらずのアクションだ。
にしてもレイラをいきなりお嬢様と!
羨ましい!俺もお帰りなさいませご主人様って呼ばれたい!
そう思っていた。

「…ねぇエルザ」
「なんだ?」

俺は耳打ちで聞いてみることにした。

「ここのメイドさん達って男嫌いなの?」
「ん?そんなことは無いと思うが」
「いやだってレイラのことはお嬢様って言うのに、僕の事は無視だよ!?僕だってお帰りなさいませご主人様って言って欲しいよ!」
「…?そうか?なら私が言おうか?」
「いいよ!もうっ!」

俺は1人で舞い上がっていた。
メイドさんが次々と出迎えてくれるからだ。
だけどその度に少し悲しくなる。

「俺もご主人様って言って欲しいなぁ…レイラいいなぁ」
「……」
「ご主人様!こうか?ハッハッハ!!」
「エルザのは要らないよ!!」

そうつい大声でエルザに返すと、
近くのメイド達の視線がギラリと光って気がした。
なんだか背中がゾワゾワした。

「…やっぱりここのメイドさん達、男嫌いなのかなぁ」


そして王の扉の前まで来た。

「いいか?開けるぞ?」
「スーーーーーハーーーーーーーー、よしいいよ!」
「……」

エルザはずっと無言だ。

ガチャッ
ギィィィィィィィィィィィィ


大きな扉を開くとそこにはメイドが真ん中に道を作るように並んでいた。


「「お帰りなさいませ、お嬢様」」


真ん中には2人は座れるんじゃないかと思えるような、
大きくて豪華な椅子があった。
しかし、その玉座には王がいなかった。

「あれ?ねぇエルザ?王様居ないんだけど」
「……?……っ!!」
「ん?王なら居るじゃないか!」
「え?どこどこ?」

と俺は辺りを見回しているがメイドさんと、
俺たち以外誰も居る気配がしない。

するとエルザが急に真ん中を歩きだし、
あろうことかその空白の玉座に座り出した。

「ちょっとエルザ!王様居ないからってダメだって!!」
「……!!」

クイックイッと袖を引っ張るレイラ。

「なに?」
「……お、おぅさま」
「だからどこよ!!」







「王は私だ。エルザ・スタイリッシュ。
それが私の名でありこの国の女王の名前でもある!」


俺は打首を覚悟した。