今日は、祝言だ。白無垢姿の(しずく)は、赤い盃を持ち、屏風の前に正座している。
 隣にいる紋付き姿の青年が、これから彼女の主人となる高藤青眞(たかとうあおま)だ。黒髪が多いこの日ノ本にあって、彼は色素の薄い、ふわふわの銀にも金にも見える髪の毛をしている。瞳の色は緋色に見えた。顔立ちは整っている。まるで異国の人のようだと、本日が初対面の雫は考える。先程並んで立った時も、背の高さに驚いた。青眞はひょろながく、若干猫背だ。

 一方の雫は、この国の女性らしい風貌だ。少々背は低いが、長い黒髪を後ろでふんわりとまとめていて、ぱっちりとした目の色も、それを縁取る睫毛の色も黒色だ。色白で、柔らかな線を描く体格の、どちらかといえば小柄で細い二十二歳の女性である。ちなみに青眞は二十六歳だと、雫はそれも本日聞かされた。

 ちらりと青眞の横顔を窺う。彼は退屈そうに、酒盃を呷っている。
 飄々とした空気を醸し出している彼と、ごくごく平凡な雫は、祖父同士の約束により、雫が生まれてすぐ許婚になったのだという。

 日ノ本では、女性の婚姻を家長の男子が決定するのは、特に珍しいことではない。
 だからそういうものかと受け入れて、雫もまた、本日は祝言に臨んだ。
 明日からは、青眞の家で暮らす事が決まっている。

 ――まだ、青眞さんのお仕事さえ知らないのだけれど。

 漠然とそう考えながら、雫も甘い酒を一口、口に含んだ。

 ――上手くやれるだろうか?

 そう考える内に、恙なく祝言は終わりを告げた。