耳が痛くなるほど蝉が鳴き太陽はこれでもかというくらい私を照らす、私の嫌いな夏がやってきた。
日焼けもするし虫も多いし、もう本当に勘弁してほしい。
汗が頬をつたり、もう何のする気も起きない。
今年もそんな憂鬱な気持ちで夏を迎えた。
と、思っていた。正確に言うと去年の12月まで。
蝉の鳴き声も太陽も日焼けも虫も、夏も。
全て憂鬱じゃない。
今日もあの背中を見つけちゃたから。
息を大きく吸い込み、私はその背中に声をかけた。
いや、叫んだ、と言った方が正しい文になるだろうか。

「五十嵐せんぱーーーい!!!」

その背中が、びくりと反応する。
だが決して振り向くことはなく、真っ直ぐに前を歩いて行く。