「わたしは春が好きです。桜を見ると、一年の初めと終わりを感じられて、いろんな気持ちを思い出させてくれるからです」


 弾んだ声色に視線を伏せながら、窓の外を向く。先日、美術の授業で『好きな季節』というお題で絵を描いた。どこを頑張ったか、どこを見てほしいか。自分たちの作品を発表する最中、棘が飛んできた。

 クラスメイトは悪くない。正直に自分の意見を述べたまでだ。ただそれが、わたしに向かってしまったというだけ。


「春のあたたかさを色で表現しました」

 ーーああ、そう。

 とどめを刺して、隣の彼女は腰を下ろした。
 うなずいたり、先生も同意するような言葉を返している。
 こんなつまらない授業は、早く終わればいい。
 次の生徒が前へ出て、黒板に張り出された絵にどよめきが起こった。

「えっ、なにあれ?」
「桜が灰色?」

 先月転校してきたばかりの、灰木(はいのき)太陽。彼の横には、桜の木が描かれていた。まわりの反応から、わたしだけではなく、みんなも灰色に見えているらしい。

 ーーどうして?

 おそらく、この教室の中で一番食い入るように見ているのは、間違いなくわたしだ。

「灰木くんは、桜をこの色にしたこだわりとか、なにか意図があるのかな?」

 先生の問いかけに、「特にないです」とさらっと答えている。
 胸の中に、ある感情が湧いた。

 まさか、そんなわけがない。でも、もしかしたらーー彼も同じなのかもしれない。