時は過ぎ、十一月末になった。
 この日、『フォルテ』の解散ライブがある。
 休日にも関わらず、綾達は模擬試験の為に学校に来ていた。
 模擬試験が終わり次第、綾はダッシュでライブハウスに向かう。
 そしてそれは瑶子も同じだった。

「良かった〜! 瑶子も間に合ったんだ」
 間一髪でライブハウスに駆け込んだ瑶子の姿を見て、綾はホッとした様子だ。
「うん。『フォルテ』の曲が生で聴けるの、今日が最後だから」
 息を切らせながら、ほんのり寂しそうな瑶子だ。
 そしてすぐに演奏が始まる。
 まるで瑶子を待っていたかのようなタイミングであった。

 解散ライブということで、セットリストはかなり豪華だと綾は感じた。
 更に、この日の為に用意した新曲もあるらしい。
 解散してしまう寂しさもあるが、『フォルテ』は最後まで綾達をワクワクさせてくれた。
 そして新曲の番になった。
 歌詞を聞いた瞬間、綾の中に電撃が走ったような感覚になった。
 隣にいる瑶子も、『フォルテ』の新曲の歌詞を聞いてハッとしたような表情になっている。
 ライブハウスの観客は半分程度。しかし、全員が満足そうな表情だった。

◇◇◇◇

「解散ライブ……ヤバかったね……」
 ライブ後、綾は余韻に浸っていた。
「うん。『フォルテ』は解散しちゃうけれど、何か元気が出たよね」
 瑶子は穏やかな表情だった。
 二人の間に沈黙が流れる。
 それは心地の良い余韻だった。
「新曲、物凄く良かったよね。何というか、背中を押してくれるような曲だった」
 瑶子がポツリと言葉を零す。その表情は、何かを決心したようなものであった。
「うん。私もそう感じた」
 綾は頷く。綾も、心の中で何かが吹っ切れていた。
「私さ、やっぱり理系に進む」
 綾はポツリと呟いた。そのまま言葉を続ける。
「今まで一人になるのが怖くて、琴乃達に合わせてばかりだったけど、それやめる」
 綾の目は、真っ直ぐ前を見据えていた。
「うん。私も文理の本決定では理系にする」
 瑶子も力強く頷いた。
「親はやっぱり音楽の道に進んで欲しいみたいだけど、これは私の人生だから。私は医学部を目指す。私が進みたい道に進むよ」
 瑶子の目は強く輝いていた。
 今回の『フォルテ』の新曲。それは二人にとって勇気をくれ、自分の道へ進むよう後押ししてくれる曲だった。

◇◇◇◇

 後日、学校にて。
「琴乃、風香、花音、ごめん。やっぱ私理系に進む」
 綾は三人の前ではっきりとそう言った。
 三人は驚いていた。
「マジか。綾、理系行くんだ」
 目を大きく見開いている琴乃。
 しかし、自分達と違う道へ進む綾を嫌ったような様子はない。
「数学と向き合うとか凄過ぎだわ」
「ね、マジ尊敬」
 風香と花音も驚きながらも綾を嫌った様子はない。
「じゃあ来年から綾とは確実にクラス分かれるけどさ、遊べる時は遊ぼうよ」
 屈託のない笑み琴乃である。
 三人の反応に、綾は拍子抜けしてしまうがホッとするのであった。
「うん、ありがとう。先生にも伝えて来る」
 綾は穏やかな笑みを浮かべた。
 そして職員室へ向かう。
 すると、丁度瑶子が出て来た。
「もしかして、文理選択?」
 瑶子の問いに綾は頷く。
「琴乃達にも伝えたら、案外あっさりと受け入れられた。私、何に悩んでたんだろうってくらい」
 綾は完全に吹っ切れた笑みである。
「そっか。私も、両親に医学部に行きたいって伝えた。そしたらやっぱり少しがっかりされたけれど、最終的には私の好きにして良いって言われた」
 瑶子の表情は明るかった。
「私達、ようやく自分の道に進める感じだね」
 クスッと笑う綾。
「うん。『フォルテ』と、それから綾ちゃんのお陰かな」
「それなら私も『フォルテ』と瑶子のお陰だよ。あの時瑶子がいてくれて、少し救われた部分もあるし」
 二人は明るく笑い合っていた。
「綾ちゃん、お昼休み終わっちゃうし、早く先生に理系選択すること伝えて来たら?」
「そうだね。ありがとう、瑶子」
 綾は軽い足取りで担任の元へ向かった。

 ようやく自分の道へ進むことが出来るようになった綾と瑶子。
 二人はしっかりと未来を見据えていた。

◇◇◇◇

 そして季節は過ぎ、翌年の四月。
 無事に二年に進級した綾と瑶子。
 廊下に貼り出された新しいクラス。
 綾と瑶子はまた同じクラスになった。
 二人は顔を見合わせて微笑み合っていた。