十月半ばになった、ある休日の朝。
 綾はスマートフォンのSNSの通知で目が覚めた。
 『フォルテ』からのお知らせである。
 眠い目をぼんやりとこすり、SNSを開く綾。
 しかし、飛び込んで来た情報を見て一気に目が覚めた。
「嘘……!?」

 ーー『フォルテ』解散のお知らせーー

 何と『フォルテ』は十一月末に解散してしまうのだ。
 応援してくれたファンへのお礼とお詫び、そして解散ライフの日程が書かれている。
 解散理由は、メンバーがそれぞれ自分の道を進むようになったから。

 綾は気が動転したまま瑶子に連絡する。

『瑶子! 『フォルテ』が解散しちゃうって!』
 するとすぐに瑶子から返信があった。
『うん。発表見たよ。驚いたしショックだよね……』

 綾はしばらく放心状態だった。
 その後、スマートフォンにダウンロードした『フォルテ』の曲を聴いて現実逃避をしていたが、解散する事実は変わらなかった。

 その後、綾は学校では何とかいつも通り琴乃達と共に過ごすものの、『フォルテ』解散のショックは忘れられなかった。
 それどころか、解散の影響で余計に琴乃達との時間が重苦しく感じてしまったのだ。

◇◇◇◇

「解散しないで欲しいよ……」
 綾ははあっとため息をつく。
「メンバーがそれぞれの道へ進む……か」
 瑶子もため息をつく。

 この日学校が終わった後、綾達は落ち着いた喫茶店に来ていた。
 主にコーヒーと紅茶、そして軽めのスイーツのみ置いている、瑶子がよく行く喫茶店だ。
 お嬢様の瑶子チョイスだから高いのではないかと不安になった綾たが、意外と根は張らなかったのでほっとしていた。
 何故(なぜ)この喫茶店を選んだかというと、クラスメイトなど高校生が寄り付かなさそうだから。
 別に綾は瑶子と一緒にいるところを見られても一応平気ではある。しかし、この関係性はどこか特別なもので、簡単に周囲に知らせたくはないという気持ちもあったのだ。

「『フォルテ』……私の心の支えでもあったんだ」
 綾はそう言い、注文した紅茶を一口飲む。
 普段飲むペットボトルの紅茶とは大違いで、飲んだ瞬間鼻の奥に上品な香りが広がった。
 やっぱり瑶子はお嬢様だと内心思う綾である。
「それは私も」
 悲しそうに微笑み、コーヒーを飲む瑶子。
「メンバーがそれぞれの道に進む……私達は決めることもできなくて、進めていないのにね」
 自嘲するように口角を上げる瑶子。
「うん。それもあって憂鬱度が増してる。でもさ……瑶子は解散ライブは行くよね?」
「もちろんだよ、綾ちゃん」
 瑶子は寂しげに微笑み、頷いた。
 綾は瑶子のその表情を見て、少し寂しくなった。

 綾と瑶子は『フォルテ』のお陰で繋がった。しかし、『フォルテ』が解散してしまったらどうなるのだろうか?

 綾は心の奥底でそんなことも考えていた。