浜崎君になりたい。

 背が高いわけでも太っているわけでもなく、制服を普通に着こなして、かけている眼鏡はまるで体の一部のよう。いたって平凡。滅多に話さないし、教室の空気のような存在で、彼は全く目立たない。それが猛烈に羨ましい。

「陽奈、何ボーッとしてんの? ぼんやりしてても美人は様になるからいいよね!」
 菜月に声をかけられて、私はあいまいに微笑んだ。ここで美人じゃないし、と言えない自分の容姿が辛い。両親が超美形なだけで、私には拒否権はなかったからなんだけどな。
「何、陽奈、恋煩いとか?!」
「陽奈ってどんな人好きになるんだろ?」
「陽奈の相手はやっぱりイケメンじゃなきゃ釣り合わないよね〜」
 一人声をかけてくると次々にクラスメイトの女子が来て、なんだか話がおかしな方向に行き始めた。
「ちょっと待って! 私、好きな人今いないから!」
 慌てて否定すると、
「えー、高二で恋してないとか、陽奈、超美人なのにもったいないよ〜」
「告られるんだから、付き合ってみるのもありかもよ?」
「い〜な、陽奈は選び放題!」
 とますます周りが騒がしくなって、私は頭痛がした。好きな人ができてもこれじゃ言えないよ。
「ん〜、今はいいかな。ほら、そろそろ授業始まるよ!」
 耐えかねた私の言葉に、
「陽奈、好きな人できたら応援するから言ってね!」
「清佳の応援なんて要らないって!」
「陽奈だもんね、そうだよね」
 口々に言いながら自分の席に戻っていく女子たち。
 私はなんだか複雑な気分になる。応援、本当にしてもらえるのかな。

 中学生の時、好きな人ができた。当時仲の良かった友人と被ってしまった。
「陽奈が相手じゃ敵わないから」
 彼女に言われて、私はそんなことないと必死に言ったけれど、彼女は泣いてしまい、翌日から私の友人をやめた。好きになった人はと言うと、私のことはクラスメイトとしか思っていなかった。彼女が告白したら結果は違っていたかもしれないのに。
 その時からなんだか人を好きになるのが億劫になった。
 
 美人は得すると思われている。私はそんなことないと言いたい。容姿のせいで目立ってしまうし、何より特別扱いされるのが寂しい。私だって中は普通の女子なんだけどな。
 私の毎日は平和といえば平和だけれど、いつも騒がしい。
 浜崎君になりたい。
 彼にも色々悩みはあるのかもしれないけれど。目立たなく慎ましやかに穏やかな日々を送りたい。そんなささやかな願いを抱くのは我儘なのかな。