一緒に馬を駆り、森の中へ入る。
 エルシーは男性と同じように馬にまたがった。女性は横乗りをするのが常識だから周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買ったのだが、ローレンスは違った。

「乗馬がお上手ですね」
 ローレンスはにこやかに言う。
「ありがとう。あなたの馬、とても立派ね」
「軍馬ですから」
「では多少のことでは動じないのね」
「訓練されていますからね。特にこいつは賢いですよ」
 そう言って、愛おしそうに首をぽんぽんと叩いた。

 黒い馬だった。よく手入れされていて、気品があった。美しい漆黒のたてがみは銀のリボンを編みこんで首に沿って三つ編みにされていた。まるで彼の服とおそろいだ。
 よほど愛しているのね、とエルシーは感心した。

 すでに勢子(せこ)が獲物を探し、犬を使って追い立ててくれていた。ローレンスとエルシーはそれを弓で射るか剣で切るかして仕留めればいい。

 最初の獲物は兎だった。
 ローレンスは馬を走らせながら弓矢を構え、一矢で仕留めた。
「すごいわ!」
 エルシーは目を輝かせた。

「おほめ頂き、光栄です」
 馬の手綱を引き、止まらせながら彼は言った。右腰の矢筒ががしゃりと揺れる。
 一人の勢子が兎を手にその場を去る。昼食の準備をしている人たちに届けに行くのだろう。

 今日のお昼ご飯は兎のローストかな。スープにも入るかな。
 エルシーはごくりと喉を鳴らした。
「次は鹿がいいわね」
 言葉遣いを丁寧にするのも忘れて、エルシーは言った。

「そうですね。猟犬たちへのご褒美のぶんも狩ってあげなくては」
 ローレンスがまた優しく微笑み、エルシーはどきっとした。
 わー! と勢子の声が聞こえた。

「次はあちらですね」
「今度は私よ!」
 エルシーは馬首を巡らせ、駆ける。
「負けませんよ!」
 ローレンスが馬の腹に拍車をかけた。
 二人は競うように走った。