答えたのは出迎えてくれた黒髪の青年だった。紫の瞳に優しい笑みをたたえている。すらりと伸びた手足、その身を包む黒い乗馬服は体の逞しさを強調し、銀の縁取りが上品だった。腰につけた剣は黒い鞘に銀の装飾が立派だ。それもまた彼を凛々しく見せていた。

「ランフォード伯爵の長男、ローレンス・オブ・キリーリ=ホークと申します」
 彼はポウ・アンド・スクレープでお辞儀をした。がしゃ、と剣が鳴った。

 エルシーは思わずカーテシーで返そうとして、手がすかっと空を切った。そのまま、ごまかすようにカーテーシー風にお辞儀をした。
「肖像画と全然違う……違いますのね」
「あの絵姿は留学前のものです。昨年、隣国ウィステリアに留学した際に食生活を見直して運動もして、こうなりました。新しい絵姿が間に合わず、驚かしてしまって申し訳ありません」

「髪の色まで変わるものですか」
「食事で肌質や髪質が変わるのはよくあることです。向こうの食事が合っていたのでしょうね」
 そういうものかな、とエルシーは曖昧に納得した。

 ハンサムじゃん。これなら断る必要なかったんじゃない?
 そう思うが、もう来てしまっている。
 姿を見られた以上、二度目があれば確実にバレる。約束通りぶち壊すしかない。

 というより、この乗馬服姿を見たら、たいていの男は嫌になるはずだ。
 そう思っていたのに、彼はにこやかにエルシーに言う。

「メイベル嬢は淑女と聞いておりましたが、ずいぶんと勇ましいお姿で」
 皮肉な様子はいっさいなかった。
「狩りに行くのですから、これでいいのです」
 エルシーが手を伸ばすと、従者がおそるおそる弓矢を手渡した。

「弓矢もたしなんでおいでで?」
「趣味なの」
 エルシーはつんと顔をそらした。
 普通、狩りに同行する女性はただ見るだけで、自ら狩ったりしない。
 これでたいていの男は嫌になるはずだ。

「いいご趣味をしてらっしゃる」
 嫌味でもなく、彼はそう言った。
 あれ?
 エルシーは指で輪を作り、口に当てた。ピーと指笛をふく。