お見合いの前日、エルシーはお忍びでメイベルの館に泊まりに行った。
彼女の両親は恐縮し、下にも置かないもてなしをした。
メイベルの自室で二人きりになると、彼女は不安そうにエルシーを見た。
エルシーは気にした様子もなく、三十センチほどの額に入った肖像画を手にした。
「これはひどい」
餌をつめこんだハムスターのように頬が膨らみ、目も顎も肉で隠れて見えない。顔中に吹き出物があり、茶色の髪はバサバサだった。服はぱつぱつで、指はソーセージのようだ。
彼はランフォード伯爵の息子で、名をローレンス・オブ・キリーリ=ホークといった。年は十九歳だという。
「よくこの絵で良しとしたわね。なんかおかしいわ」
エルシーはじっと絵を見つめる。
「本当にやるんですか?」
不安そうにメイベルが言う。
「大丈夫よ。お見合いでは両親の立ち合いはなしで、狩りをしたいって言ってくれたのよね?」
「言いました」
「その時点で断られそうなのに、了承されたのよね?」
「そうなんです」
「あとはお見合いで私が暴れればいいだけだわ」
「でも、バレるんじゃ……」
「大丈夫、金髪に緑の目っていう特徴は同じだもの。もしバレたって私は名にしおうお転婆よ。王女がいたずらしたって思われるだけで、お咎めなんかないわ」
エルシーは自信満々にそう言った。が、メイベルは不安でたまらなかった。
だが、それ以上に不細工との結婚が嫌だった。
「お願いします」
メイベルは深々と頭を下げた。