「そんな彼の内面をみることなく嫌がるなんて、私は許せなかったんですよ」
「お母さんはどうしてそんなことをするんだろう」

「私にはわかりません。理解する気にもなれません。だが、そういう人がいる、というのは事実です。滞在中にお会いしたが、まったく普通の母親に見えましたよ」
 エルシーは複雑な気持ちでアルフレッドを見た。

「縁談を進めたのは、彼がウィステリアに移住しようとしているのを阻止したかったようです」
「それって逆に怖い」

 縁談をと言いながら、あえて醜い絵姿を作って贈る。どういう心理なのだろう。
 ローレンスの悩みはどれだけ深かっただろう。

「ともあれ、お見合いも破談になったことですし、彼は安心して我が国に来てくれます。あちらに彼の良い人もいますからね」
「良かった!」

 エルシーはほっと胸をなでおろした。ならば、これから彼は幸せな明るい人生を歩いて行くのだろう。

「あなたは?」
 アルフレッドは紫の瞳でエルシーを見つめる。
「我が国においでになるとき、あなたはどのようなお気持ちでいらっしゃる?」
 答えずに、エルシーは目をそらした。

「ひどいお方だ。私の心を奪っておいて、自分のお気持ちは話してくださらない」
「奪ったなんて、そんなの」

「まあ、良しとしましょう。私とあなたは結婚が確約されている。こんなうれしいことはない」
 アルフレッドはエルシーの手を持ち上げて口付ける。
 エルシーはかあっと頬を熱くした。

「おかしなこと言わないで!」
「なにもおかしなところはございませんよ」
 アルフレッドはエルシーの腰を抱く。

「それとも、お嫌ですか?」
 エルシーは答えに窮してうつむいた。

 そうだ、と閃いて指を輪にしてくわえ、指笛をふく。
 ぴー! と音が響く。