「やはりよくお似合いだ」
 満足げに彼は言った。
綺羅(きら)をまとうあなたも美しい。深緑の瞳によく映える」
「ありがとうございます」
 お辞儀をすると、房飾りが揺れて涼やかな音を立てた。

「来月には藤が咲きます。庭園の広大な藤棚にいろんな種類の藤が咲き誇り、それはそれは見事です。ぜひ見に来ていただきたい」
 エルシーは無言でうつむいた。

 藤棚はとても美しいだろう。薄紫の房が一面に垂れ、風に揺れ、爽やかさと甘さを含んだ芳香が漂う。その中を彼に手を引かれて歩くのかと思うと、それだけで照れてしまう。

「どうされました?」
 気付いたアルフレッドがエルシーに話しかける。
「ずるい」
 ぼそっとエルシーは言う。

「なにがですか?」
「自分は全部、わかってたんじゃん」
「殿下とて私を騙そうとなさった」
「騙すっていうか……。そもそも、あなたがあの場にいることがおかしいじゃない」
「お互い様ですよ」
 くすくすと彼は笑った。

「私はしばらく前から彼の館に滞在していましてね。それで見合いを知りました」
「どうして入れ替わってたの?」

「殿下はどうして?」
「お見合いが嫌だっていうから、壊してあげようと思って」

「親切がすぎませんか?」
 彼はまたくすくすと笑い、続けて言った。
「私はそれが理由ですよ」
 アルフレッドが言う。

「どういうこと?」
 顔を上げると、優しく微笑した顔があった。

「見合いは彼の本意ではありませんでした。母親が強引に進めた話で、断るつもりだったんですよ。それでも見合い相手が自分の醜さを嫌っていると聞いて彼は傷付きました」

「そんなこと、どこで本人が知るの?」
「母親が聞かせたのですよ。噂になっている、と」