「え、でも……」
「絵姿は届きませんでしたか?」
「まだ……」
「私はすでに拝見しておりましたよ、殿下」
 黒髪の男性——アルフレッドが言う。

 エルシーは唖然とした。
 そうだった。
 自分もまた絵姿を相手に贈っているのだ。

 いくら盛られて描かれているとはいえ、特徴はとらえられている。だから彼は、狩りで最初に会ったときから気付いていたのだ。

 エルシーは呆然としてしまい、そのあとの会話を覚えていられなかった。



 気が付けば、二人で散歩でもして来い、と庭に放り出されていた。
 エルシーとアルフレッドは並んで庭園を歩く。

 空は晴れ渡り、澄んでいた。
 庭はいつも通りに手入れが行き届き、芝生の緑が青々と茂り、花壇にはイフェイオンが美しく咲いていた。白、ピンク、黄、青の花を使って幾何学模様が描かれ、目を楽しませてくれる。

「ああ、美しいな」
 アルフレッドは立ち止まり、感嘆をもらした。
 エルシーはそっと彼を見上げる。
 青空に彼の黒髪が映え、紫の瞳がきらめいた。

 彼はふと振り返り、目を笑みに細めた。
 アルフレッドは懐からなにかを取り出し、エルシーに見せた。

「これをあなたに」
「きれい……」
 藤の花を象ったかんざしだった。土台は銀で、花の房は紫水晶で作られていた。

「私がつけて差し上げてもよろしいですか?」
「お願いします」

 ローレンスはすっと手を伸ばし、結い上げた髪にかんざしを刺す。
 彼の手が髪に触れる。それだけで鼓動が早くなった。