「いいぞ、お前たち」
 ローレンスは剣の柄を握り直す。
 狼がよりいっそう牙を見せてぐるると唸る。

 お互いに隙がなく、膠着(こうちゃく)した。
 じりじりと、灼けるように時間が過ぎていく。

「後ろ!!」
 エルシーの声がした。
 彼はハッと振り返る。ハーディが駆け、背後に忍び寄っていた狼に食らいついた。

 ボスの足が地を蹴った。
 ひと跳びにローレンスにとびかかる。

 咄嗟に突き出した剣はよけられ、背後の崖を蹴り、ボスは跳ねるようにしてローレンスに再度とびかかる。

 予想外の動きに、彼は避け切れなった。
 地面に突き倒され、剣を取り落とした。両肩を両前足で抑えられる。
 その牙がローレンスの首を狙う。
 ローレンスは必死に両腕を伸ばしてそれを避けた。

 狼の仲間が両者を取り囲み、犬たちを寄せ付けない。
「やめなさい!」
 エルシーはとっさに彼の馬にまたがった。そのまま突進し、ジャンプさせる。

 犬を飛び越え、狼の群れの中に着地させる。驚いた群れはいったん散らばった。馬に蹴られたら軽傷では済まないと、彼らは本能的に知っている。

 破られた囲みを抜け、犬と狼の乱闘が再開された。

 馬を降りたエルシーは隙を見て地面に突き刺さった矢を引き抜いた。
 弓につがえ、ボス狼に向けて放つ。

 ローレンスを噛み裂こうとしていたボスはエルシーの殺気に反応が遅れた。
 よけきれず、矢が胴体に刺さる。

「ぎゃいん!」
 ボスは悲鳴を上げて跳びすさった。

 ローレンスはとっさに懐から短剣を出し、構える。

 エルシーはエイミアブルに守られながらまた矢を拾い、狼を牽制しながら移動する。
 剣を拾うなりローレンスに駆け寄り、ボスとにらみ合うローレンスに差し出す。

 ローレンスは油断なくボスから目を離さず、それを受け取る。

 エルシーがまた矢をつがえてボスを狙う。
 ボスの目が一瞬、エルシーを見た。

 刹那、ローレンスは一気に距離をつめた。
 ボスもまた牙を向く。
 剣がボスを捉えた。ガッ! と刃が肉に食い込む。