「来たわ!」
 エルシーは叫び、指笛を吹いた。

 その声に喜びが含まれているようで、ローレンスはいぶかしく思った。が、彼女を振り返る余裕はない。少しでも目を離した瞬間、狼たちは襲い掛かって来るだろう。

 森の中、下生(したば)えを踏んで走る足音が聞こえた。その呼吸は荒い。

 一頭ではない。集団だ。
 先頭を見た瞬間、エルシーはまた叫んだ。

「ハーディ!」
 グレイハウンドは主人の危機に、すぐさま反応した。
 彼が一鳴きすると、仲間の猟犬は彼の両側を追い抜いて狼に襲いかかる。エイミアブルはエルシーを守るように駆け寄った。

「これは……」
 ローレンスは呆然とそれを見た。
「さっきの指笛、このこたちを呼んだのよ!」
 エルシーが喜んで言う。

 十頭ほどの狼に対して二十頭の猟犬が次々と襲い掛かった。体格では不利でも数は上、しかも訓練されている。狼は苦戦を強いられた。

「ありがたい」
 ローレンスはひときわ大きな狼へと駆け寄る。
 すでにハーディとコーレイがボス狼と格闘していたが、二頭はローレンスを見てボスからさっと離れる。
 ボスはハーディたちと彼を見比べ、ローレンスに対峙した。

 なめられてるな。
 ローレンスは唇の端を歪め、笑った。
 犬二頭より(くみ)しやすしと判断されたわけだ。
 その(あなど)り、後悔させてやる。
 剣を体に引き寄せて構え、じり、とにじり寄る。

 狼が動いた。
 ローレンスも駆ける。
 剣を狼の首に袈裟懸(けさが)けにふるう。
 狼はステップするように避け、後ろに回り込む。

 ローレンスが振り返るより早くハーディが威嚇し、狼は牙をたてられない。
 彼は踏み込んで剣を突き出す。
 狼は素早く避けるが、その先にはコーレイが待ち構え、うなる。