「ご令嬢らしくない」
「悪い?」
「むしろ好感を持ちます」
 笑顔で言われて、エルシーは顔を赤くして目をそらし、話もそらした。

「まだ見つけてもらえないのね」
 陽はすでに傾き、空気は冷たくなり始めていた。

「狼のフンでもあれば、のろしをあげてみんなに居場所を知らせられるのですが」
「なんで?」
「乾燥した狼のフンを燃やすと煙がまっすぐに上がるのですよ。軍でも連絡に使います」
「探してみる?」
「さきほど薪を取りに行ったときに探しましたが、ありませんでした。そのほうがいいかもしれませんが」
「狼が近くにいるってことになるもんね」
 狼を直接見たことはない。毛がふさふさしていると聞いているから、かわいいだろうか。

「お寒くはありませんか」
「平気。火もあるし」
 そう答えたのに、ローレンスはコートを脱いでエルシーにかけた。
 見上げると、彼の瞳が自分を見つめている。
 優しい紫だ。思わず見とれてしまう。黒髪は宵闇のようにやわらかく、形の良い唇は笑みを刻んでいる。

「あなたはまるで夜のようね。優しくなにもかも包み込んでしまう」
「そういうあなたは太陽に照らされた草原のようだ。爽やかで心が温かくなる」

 直後、唇を奪われた。
 エルシーは思わず彼を突き飛ばした。

「申し訳ない。あまりにあなたがかわいくて」
 エルシーは草をむしって彼に投げつけた。
「ひどい! ひどすぎるわ!」
 エルシーは草をむしっては投げつける。

 ローレンスはため息のように苦笑した。
「私はしばらく離れておりましょう」
 エルシーは彼のコートを投げた。
 彼は無言で受け取り、羽織る。
 そうして、エルシーの見えないところへ歩いて行った。