二人は泉で喉を潤し、馬にもまた水を飲ませた。
 ほとりに並んで座り、馬が草をはむ様子を眺めながら話をした。

 彼はウィステリアの話をしてくれた。イフェイオンと同じところ、違うところ、あちらで流行っている藤の花を模した飴や貴重な藤の蜜を使った焼き菓子の話など。
 おいしそうな話に、エルシーは目を輝かせた。

「お菓子の話を聞いたらお腹が空いて来たわ」
「兎、食べてしまいましょう」
 そう言って、彼は馬を木に繋いだ。それから周囲の草をむしり、薪を拾ってきて火をつけた。懐に持った短剣の柄の中に火打石が仕込まれていて、それを使ったのだ。同じく短剣で木を削って串を作り、捌いた兎の肉を刺して焼く。

「すごいわ、そんなことできるのね」
「一時期、ウィステリアの軍にいましたからね。野営の技術も教えられるのですよ」
「外国から来た人でも入れるの?」
「……ああ、外人部隊もありますよ」
「私も入れるかしら」
「ダメですよ。狼の群れに兎を放り込むようなものです」
 彼はそう答えて、焼けた串をエルシーに差し出した。

「味付けするものがないので、お姫様の口には合わないかもしれませんが」
 一瞬どきっとした。が、お姫様は王女だけを指すわけではない、と思い直す。貴族の令嬢もまたお姫様と呼ばれることがあるし、愛しい人をそう呼ぶこともある。
 愛しい人、と思ってまたどきっとした。

「大丈夫よ。空腹は最高の調味料って言うじゃない」
 言い返したエルシーに、彼は優しく微笑した。
 二人で兎肉をおいしくいただいて、エルシーは大きく息を吐いた。
「おいしかった!」
 お腹をなでるエルシーを見て、ローレンスはくすくすと笑う。