「私が留学していた国もまた花の名を冠しています」
「知ってるわ。ウィステリア、藤の花よね」
「そうです」
 彼の紫の瞳が笑みに細められた。

「ですが、どのような花もあなたの美しさには足元にも及びません」
 彼はイフェイオンを手折り、彼女の髪に挿した。
 彼が間近に迫り、エルシーはどきどきして顔を伏せた。

「よくお似合いです。あなたのドレス姿も見てみたい」
 エルシーは答えられず、地面を見つめた。ブーツをはいた彼の足先だけが見える。
 ちちち、と鳴きながら小鳥が飛んで言った。

「あなたはとても魅力的だ。私はすっかり虜になりました」
「そんな……」
 エルシーの顔から血の気が引いた。

 お見合いをぶち壊しに来たのに、そんなことを言われるなんて。
 驚くと同時に、胸が痛んだ。
 彼は自分をメイベルだと思っている。
 エルシーではなく、メイベルだと。

 そうして自覚した。
 自分もまた彼を快く思っている。
 それどころか。
 いや、ダメだ。それを認めてはいけない。
 そう思うのに。
 ローレンスはすっと手を伸ばして、エルシーを抱きしめた。

「好きです」
 耳元で、彼がささやく。
 エルシーはとっさに彼を突き飛ばした。

「……申し訳ありません。急ぎ過ぎたようです」
 ローレンスは素直に謝った。
 エルシーはなにも答えられず、顔をそむけた。