「優也、早く行くぞー」
僕の腕を掴み無理やり歩き始める想太。なぜこうなったかと言うと、あれから想太は僕に声をかけてくれることが多かった。
それでも僕は絶対に嘘だ、などと言っていた結果、なぜか彼の家に連れていかれることになった。
「俺の家学校からすぐそこだし、俺が小説を好きなことを証明してやるよ」
そんなことを言い、僕は半ば強引に彼の家へと連れていかれる。学校から徒歩五分位のところに彼の家はあった。
白を基調とした可愛らしい家だった。彼が家に入り僕もそれに続いて入る。
「二階の一番奥の部屋行っといて。俺の部屋」
彼に促され僕は指示通り彼の部屋と思わしき部屋に入る。
「すげぇ・・・・・・」
僕は思わず感嘆の声を上げる。彼の部屋には一つ大きな棚があった。
しかもそこには恋愛小説が埋め尽くされていた。中には有名な小説や、僕が持っているものなどもあった。
彼の言っていたことはどうやら本当らしい。
「だから言ったろ、俺は恋愛小説好きなんだって」
僕が立ち止まっていたら、後ろから想太がやってくる。
「確かに、信じるよ」
想太は納得したように頷く。それからは僕たちは小説について語りあっていた。
想太も小さい頃に小説を読んだことにより、感動して小説が好きになったらしい。そして意外なことに、彼も小説を書いていたのだ。
投稿もしていないし、誰にも言っていないらしい。そんなことを何で僕に話してくれたのかはよく分からない。
「想太の書いた小説読んでみたい」
「俺のなんて全然下手だぞ」
「それでもいいよ」
上手いとか下手とかどうでもよかった。ただ彼がどんな物語を書いているのか知りたかった。
彼から一台のパソコンを渡される。どうやら彼はパソコンで小説を綴っているらしい。
タイトルを見るに恋愛小説だった。文字数は8000字程度。短編小説にしても少ない方だった。
僕は最初から最後まで全て読む。そして感動した。たった8000字という少ない文字数でも、ここまで感動する小説を書けるのか。
「すごい・・・・・・想太の小説めっちゃいいよ!」
興奮してしまい少し声が大きくなる。でもそれくらい彼の小説は凄かった。
「ありがとよ」
「なんでこんなに凄いのに投稿しないの?」
素朴な疑問だった。小説を書く側からしたら、自分の書いたものを誰かに読んでもらいたいと思うのは当たり前だ。
なのに彼の小説は非公開になっていた。
「なんか自信なくてさ、俺国語まじ出来ないから」
「なるほどね」
彼の理由はよく分かった。確かに彼が書いた小説のストーリー性はとても凄い。だけど、表現の部分などは少し改善が必要だと思った。
「ならさ、二人で一つの小説を作らない・・・・・・?」
僕は何を言っているんだろう。クラスの一軍男子に一緒に小説を作ろうなんて。
でも彼と協力すればとても良い小説が出来るかもしれない。僕はそう思った。
「優也がいいなら、やろうぜ!」
想太は僕の意見をあっさりと承諾してくれた。そしてこの日から僕と想太の小説同盟が出来たのだ。
まずはどんな小説を書くか。そこに関しては迷うことなく、恋愛小説だった。
主人公はどうするか。ヒロインはどうするか。年齢は、結末は、僕たちは夜遅くまで話し合っていた。
その時間はとても楽しかった。初めて同じ趣味の人に出会えたから。
「じゃあ今日は解散だな。来週の水曜日また家に来いよ」
「わかった、ありがと」
約束をして僕は彼の家を後にした。