僕には誰にも打ち明けていない趣味がある。それは小説を書いていること。そして夢が小説家であることだ。
小学校六年生の時に、姉から一冊の小説を貰った。だけど本嫌いの僕は読むつもりなんて無かった。
結局読むことはなく、放置したまま中学生になった。中学校に入ると朝読書があり、必ず本を読まなければいけなかった。そしてもちろん漫画はだめ。
僕はその時、姉から貰った小説を読んでみようと決めた。最初は文字ばかりで頭がおかしくなってしまった。こんなの読める人は尊敬だ。ずっとそう思っていた。
しかし読んでいくにつれて、どんどん小説の世界に呑まれて行った。余命僅かな少女と、それに振り回される男の子の話。余命系の小説なんて結末なんか容易に想像がつく。
そして気が付くと分厚い小説を読み終えていた。
読み終えた時、僕は涙を流していた。自分でも予想外だった。結末なんて最初からわかりきっていた。
それでも少女の最後まで全力で生き抜く姿、言葉に僕は心が動かされたのだ。
それからは自分でも小説を書いてみたいと思ったのだ。自分の手で誰かの心を動かしたい。そんな風に思い、僕は小説を書き始めた。
最初はストーリー設定や、主人公の名前、ヒロインの名前などとても苦戦した。それらが決まっても文章として書き出すことが出来なかった。
小説を書くということは簡単ではない、そんなことを身に染みて感じた。
小説を書いていることは誰にも打ち明けた事が無かった。否定的な言葉を言われるのが怖かったから。
書き始めて一年がたった頃、僕の小説を読んでくれる人はそこそこ増えてきた。コメントをくれる人もそこそこいた。
そのコメントたちが僕の力の源になっていた。そして中三の夏。周りはみんな受験勉強で忙しそうだった。
そんな中、僕は確実に入れる高校を志望し、勉強などせずに小説を書いていた。周りからはもっと上を目指した方がいいなどと言われた。
その度に適当に理由をつけて断っていた。夏休みが終わり、本格的に受験勉強にみんなが取り組み始めた時、僕は親友に小説のことを話した。
親友は決して僕のことを否定せずに、背中を押してくれた。勉強で忙しくても僕の小説を読んでくれたりもした。
その時の彼の言葉を僕は忘れない。
『優也の小説めっちゃ良かったよ。感動した。お前すごいな』
──感動した
僕が言われて一番嬉しい言葉だった。僕の書いている小説は短編小説。小説を書き始めて二年以上経つが、未だに長編には手を出せなかった。
それでも感動したと言われたのはとても嬉しかった。それから僕は小説を書いていることを、隠さないことにした。もっとみんなに知ってもらいたい。多くの人に読んで欲しい。
そう思ったからだ。そうして僕は中学校を卒業した。
時が経ち僕は高校生へとなった。今日が初めての登校。慣れない制服に身を包み、高校へ向かう。
教室には知らない人ばかり。はっきり言って心配だった。すぐにクラス内の一軍のような人たちは、仲良くなり話していた。
僕は結局誰とも話すことなんて出来なかった。担任がやってきて、自己紹介から始まる。自己紹介をすれば友達ができると思っていた。
しかし、そんな考えが甘かった。自分の前になり、自己紹介をする。
「小鳥遊優也です。趣味は小説を書くことで将来の夢は小説家です。良かったら読んでみてください。よろしくお願いします」
教室が少しざわついた。予想通りだった。
「小説家って全然儲からないんでしょ・・・・・・」
「絶対他のこと目指した方がいいだろ・・・・・・」
至る所から聞こえてくる会話。思っていた内容と違い、僕は固まってしまう。
「じゃあ次の人お願い」
先生からの言葉で固まった体が動く。僕はゆっくりと腰を下ろした。周りから視線を感じる。
この人たちから見る小説家は、僕から見る小説家と違うんだ。そのことは僕にとって辛かった。
自分の夢が否定された気がして。一通り自己紹介が終わり、自由時間になる。
みんな近くの席の人たちと話したり、同じ中学校同士で固まっていた。後ろから肩を叩かれ、僕は振り返る。
「小説家になりたいって言ってたよな」
振り返るとそこには爽やかイケメンという言葉が似合いそうな男子が座っていた。確か名前は海斗とか言ってた。
もしかして海斗も小説に興味があるのかもしれない。それなら話が合うと思い、僕は少し楽しみだった。
「小説家ってまじで儲からないんじゃないの?それなのに小説家になりたいの」
小馬鹿にするように笑いながら言う海斗。予想外の笑みに僕はショックを受ける。
「儲かる儲からないなんて別にいいよ」
本音だった。僕はただ自分の書いたものを誰かに読んで欲しいだけなんだ。そして誰かの心を動かしたい。
そのために今まで小説を書いてきた。だから儲かるだの、儲からないだの僕には関係ないんだ。
「へぇー、まあがんばれよ」
海斗は腑に落ちないような顔をして去っていった。結局、登校初日は友達と呼べる人は出来なかった。
まあいずれ出来るだろう。僕はそんな期待をしていた。だけどそんなのはただの期待に過ぎなかった。
高校生になって一週間が経っても、友達なんて出来なかった。というか話しかけてくる人さえもいなかった。
たまに僕の話が教室から聞こえてくることもあった。
だけど、決してそれはいい話ではなかった。
「男子なのに恋愛小説書いてるとか、好きってなんかちょっと引くよね・・・・・・」
そんな女子たちの会話が僕の耳に入ってきた。僕は聞こえないふりをしたが、ただただ辛かった。
自分の趣味が侮辱された気がして。
──男子なのに
僕はその言葉が何より辛かった。男子なら恋愛小説を書いていけないのか。恋愛小説が好きじゃいけないのか。性別で左右されるこんな世の中が嫌になった。
それから何度も自問自答を繰り返していた。他にも僕が小説を書いていることを、悪く言う人はいた。
「なんか国語出来ますよアピール見たいだよな。気に食わないわ」
聞きたくもないのに耳に入ってくる言葉。中学の友達ならたくさん褒め言葉をくれたのに。
なんで高校ではここまで言われなくちゃいけないんだ。僕の心はどんどん限界に近づいていた。
僕の小説を読んでくれる人なんていないんだ・・・・・・
ある日の夜、僕はそう思ってしまった。今までもそう考えてしまう時はあった。それでも友達の存在があったから、乗り越えてこれたのだ。
だけど今はもう乗り越えられる自信がなかった。
──何のために小説なんて書いてるのだろう
一番考えてはいけないことが、僕の頭を支配する。そして僕は今まで投稿していた小説を非公開にした。
次の日もいつも通り学校に行く。いつもと変わらない日常。だと思っていた。
僕が教室に着く頃にはいつもそこそこ人がいる。
僕が席に着くと一軍男子の内の一人、想太がこちらに来た。
「なぁ優也。お前なんで小説非公開にしたんだよ」
「へっ?」
彼から思いもよらないことを言われ、僕は素っ頓狂な声を出してしまう。なんで彼が小説を非公開にしたことを知っているんだ。
もしかして僕の小説を読んでくれていたのか。まさかそんなはずが無い。だって彼はクラスの一軍男子。
それに今まで話したこともない。そんな彼が僕の小説を読むはずがない。さてはからかうために確認していたのか。絶対にそうだ。
「なんでそんなこと君が知ってるの?」
からかわれるのはごめんだ。だから冷たく聞き返す。
「なんでって俺、お前の小説読んでるから」
「えっ」
またもや変な声が出てしまう。彼は今なんて言った?
僕の小説を読んでるだと?
きっとまだ僕のことをからかっているんだ。そう思う反面、どこか嬉しさがあった。
「僕のことからかってるでしょ」
つい思ってることを口走ってしまった。だって信じられるはずがない。この教室で僕の小説を読んでくれてる人なんていないと思っていた。
「からかってなんかねぇよ。俺、小説読むの好きだからさ」
彼の言葉に僕は驚かされる。クラスの一軍で運動も出来るイケメンの想太が、小説を読むのが好きなんて。
それなら話をしたい。同じ趣味を持つ人と話をしたいと僕は思った。
「そうだったんだ。ならさ僕と友達にっ・・・・・・」
「おい想太。こっちこいよー」
僕たちの話を遮るように、想太はいつものメンツに呼ばれてしまう。
「じゃあまた話そうぜ」
彼はそう言って、戻って行った。僕はただ去っていく彼の後ろ姿を見ているだけ。
正直、彼がほんとに僕の小説を読んでくれていたのかは分からない。それに僕もまだ彼を信用していなかった。
全く話したこともない、しかも一軍男子をすぐに信じることは出来なかった。それでも気が付くと僕は、非公開にしたはずの投稿を公開に戻していた。
小学校六年生の時に、姉から一冊の小説を貰った。だけど本嫌いの僕は読むつもりなんて無かった。
結局読むことはなく、放置したまま中学生になった。中学校に入ると朝読書があり、必ず本を読まなければいけなかった。そしてもちろん漫画はだめ。
僕はその時、姉から貰った小説を読んでみようと決めた。最初は文字ばかりで頭がおかしくなってしまった。こんなの読める人は尊敬だ。ずっとそう思っていた。
しかし読んでいくにつれて、どんどん小説の世界に呑まれて行った。余命僅かな少女と、それに振り回される男の子の話。余命系の小説なんて結末なんか容易に想像がつく。
そして気が付くと分厚い小説を読み終えていた。
読み終えた時、僕は涙を流していた。自分でも予想外だった。結末なんて最初からわかりきっていた。
それでも少女の最後まで全力で生き抜く姿、言葉に僕は心が動かされたのだ。
それからは自分でも小説を書いてみたいと思ったのだ。自分の手で誰かの心を動かしたい。そんな風に思い、僕は小説を書き始めた。
最初はストーリー設定や、主人公の名前、ヒロインの名前などとても苦戦した。それらが決まっても文章として書き出すことが出来なかった。
小説を書くということは簡単ではない、そんなことを身に染みて感じた。
小説を書いていることは誰にも打ち明けた事が無かった。否定的な言葉を言われるのが怖かったから。
書き始めて一年がたった頃、僕の小説を読んでくれる人はそこそこ増えてきた。コメントをくれる人もそこそこいた。
そのコメントたちが僕の力の源になっていた。そして中三の夏。周りはみんな受験勉強で忙しそうだった。
そんな中、僕は確実に入れる高校を志望し、勉強などせずに小説を書いていた。周りからはもっと上を目指した方がいいなどと言われた。
その度に適当に理由をつけて断っていた。夏休みが終わり、本格的に受験勉強にみんなが取り組み始めた時、僕は親友に小説のことを話した。
親友は決して僕のことを否定せずに、背中を押してくれた。勉強で忙しくても僕の小説を読んでくれたりもした。
その時の彼の言葉を僕は忘れない。
『優也の小説めっちゃ良かったよ。感動した。お前すごいな』
──感動した
僕が言われて一番嬉しい言葉だった。僕の書いている小説は短編小説。小説を書き始めて二年以上経つが、未だに長編には手を出せなかった。
それでも感動したと言われたのはとても嬉しかった。それから僕は小説を書いていることを、隠さないことにした。もっとみんなに知ってもらいたい。多くの人に読んで欲しい。
そう思ったからだ。そうして僕は中学校を卒業した。
時が経ち僕は高校生へとなった。今日が初めての登校。慣れない制服に身を包み、高校へ向かう。
教室には知らない人ばかり。はっきり言って心配だった。すぐにクラス内の一軍のような人たちは、仲良くなり話していた。
僕は結局誰とも話すことなんて出来なかった。担任がやってきて、自己紹介から始まる。自己紹介をすれば友達ができると思っていた。
しかし、そんな考えが甘かった。自分の前になり、自己紹介をする。
「小鳥遊優也です。趣味は小説を書くことで将来の夢は小説家です。良かったら読んでみてください。よろしくお願いします」
教室が少しざわついた。予想通りだった。
「小説家って全然儲からないんでしょ・・・・・・」
「絶対他のこと目指した方がいいだろ・・・・・・」
至る所から聞こえてくる会話。思っていた内容と違い、僕は固まってしまう。
「じゃあ次の人お願い」
先生からの言葉で固まった体が動く。僕はゆっくりと腰を下ろした。周りから視線を感じる。
この人たちから見る小説家は、僕から見る小説家と違うんだ。そのことは僕にとって辛かった。
自分の夢が否定された気がして。一通り自己紹介が終わり、自由時間になる。
みんな近くの席の人たちと話したり、同じ中学校同士で固まっていた。後ろから肩を叩かれ、僕は振り返る。
「小説家になりたいって言ってたよな」
振り返るとそこには爽やかイケメンという言葉が似合いそうな男子が座っていた。確か名前は海斗とか言ってた。
もしかして海斗も小説に興味があるのかもしれない。それなら話が合うと思い、僕は少し楽しみだった。
「小説家ってまじで儲からないんじゃないの?それなのに小説家になりたいの」
小馬鹿にするように笑いながら言う海斗。予想外の笑みに僕はショックを受ける。
「儲かる儲からないなんて別にいいよ」
本音だった。僕はただ自分の書いたものを誰かに読んで欲しいだけなんだ。そして誰かの心を動かしたい。
そのために今まで小説を書いてきた。だから儲かるだの、儲からないだの僕には関係ないんだ。
「へぇー、まあがんばれよ」
海斗は腑に落ちないような顔をして去っていった。結局、登校初日は友達と呼べる人は出来なかった。
まあいずれ出来るだろう。僕はそんな期待をしていた。だけどそんなのはただの期待に過ぎなかった。
高校生になって一週間が経っても、友達なんて出来なかった。というか話しかけてくる人さえもいなかった。
たまに僕の話が教室から聞こえてくることもあった。
だけど、決してそれはいい話ではなかった。
「男子なのに恋愛小説書いてるとか、好きってなんかちょっと引くよね・・・・・・」
そんな女子たちの会話が僕の耳に入ってきた。僕は聞こえないふりをしたが、ただただ辛かった。
自分の趣味が侮辱された気がして。
──男子なのに
僕はその言葉が何より辛かった。男子なら恋愛小説を書いていけないのか。恋愛小説が好きじゃいけないのか。性別で左右されるこんな世の中が嫌になった。
それから何度も自問自答を繰り返していた。他にも僕が小説を書いていることを、悪く言う人はいた。
「なんか国語出来ますよアピール見たいだよな。気に食わないわ」
聞きたくもないのに耳に入ってくる言葉。中学の友達ならたくさん褒め言葉をくれたのに。
なんで高校ではここまで言われなくちゃいけないんだ。僕の心はどんどん限界に近づいていた。
僕の小説を読んでくれる人なんていないんだ・・・・・・
ある日の夜、僕はそう思ってしまった。今までもそう考えてしまう時はあった。それでも友達の存在があったから、乗り越えてこれたのだ。
だけど今はもう乗り越えられる自信がなかった。
──何のために小説なんて書いてるのだろう
一番考えてはいけないことが、僕の頭を支配する。そして僕は今まで投稿していた小説を非公開にした。
次の日もいつも通り学校に行く。いつもと変わらない日常。だと思っていた。
僕が教室に着く頃にはいつもそこそこ人がいる。
僕が席に着くと一軍男子の内の一人、想太がこちらに来た。
「なぁ優也。お前なんで小説非公開にしたんだよ」
「へっ?」
彼から思いもよらないことを言われ、僕は素っ頓狂な声を出してしまう。なんで彼が小説を非公開にしたことを知っているんだ。
もしかして僕の小説を読んでくれていたのか。まさかそんなはずが無い。だって彼はクラスの一軍男子。
それに今まで話したこともない。そんな彼が僕の小説を読むはずがない。さてはからかうために確認していたのか。絶対にそうだ。
「なんでそんなこと君が知ってるの?」
からかわれるのはごめんだ。だから冷たく聞き返す。
「なんでって俺、お前の小説読んでるから」
「えっ」
またもや変な声が出てしまう。彼は今なんて言った?
僕の小説を読んでるだと?
きっとまだ僕のことをからかっているんだ。そう思う反面、どこか嬉しさがあった。
「僕のことからかってるでしょ」
つい思ってることを口走ってしまった。だって信じられるはずがない。この教室で僕の小説を読んでくれてる人なんていないと思っていた。
「からかってなんかねぇよ。俺、小説読むの好きだからさ」
彼の言葉に僕は驚かされる。クラスの一軍で運動も出来るイケメンの想太が、小説を読むのが好きなんて。
それなら話をしたい。同じ趣味を持つ人と話をしたいと僕は思った。
「そうだったんだ。ならさ僕と友達にっ・・・・・・」
「おい想太。こっちこいよー」
僕たちの話を遮るように、想太はいつものメンツに呼ばれてしまう。
「じゃあまた話そうぜ」
彼はそう言って、戻って行った。僕はただ去っていく彼の後ろ姿を見ているだけ。
正直、彼がほんとに僕の小説を読んでくれていたのかは分からない。それに僕もまだ彼を信用していなかった。
全く話したこともない、しかも一軍男子をすぐに信じることは出来なかった。それでも気が付くと僕は、非公開にしたはずの投稿を公開に戻していた。