……幼い頃から、好きな子がいた。

 月のように優しく、星のように力強く笑う女の子。

 ずっと一緒にいたいと思った。

 けれど、その願いは、悪夢によってかき消されてしまった。

 6歳の夏祭りの夜。
 あの日から抜け落ちた、空白の時間。

 目覚めた時に見た、満天の星と、あの子の涙。


 この後待ち受けるのは、僕の涙か、キミの涙かは、わからない。

 けれど、どちらかの瞳から涙が溢れてしまうのならば——

 ——太陽が、涙を流せばいいな。

 ◆◆◆

 「う……って、あれ? 僕は、なにしてた?」
 目覚めれば、そこには、あの日とは違う夜空が広がっていた。
 今日は、満月が主役だ。清らかで、不気味さなんて一欠片もない。
 けど、あの日の月は違った。
 三日月で、食べられてしまいそうになるくらい、不気味だった。
 だから、少し安心する。
 ……次に視界に入ったのは、女の子だった。
 「え⁉︎ ルナ⁉︎」
 肩にかかるくらいの長さの髪。夜空のように澄んだ瞳。
 あぁ、やっぱり。

 ……ルナだ。

 幼稚園の時から仲が良くて、一緒に遊んでいた女の子。
 月のように清らかな瞳に、真夜中を連想させる漆黒の髪……絵に描いたようなヒロインだ。
 「僕は、なにをしてたんだっけ……? そもそも、なんでこんな服を……?」
ふと我に返り、疑問が頭にふわふわと浮かんでくる。
僕は、白と赤を使った、神社の巫女装束みたいな服を着ていた。
だけど、あの日は、こんな服じゃなかった。
朱色の甚兵衛に、狐のお面。
背丈は今の2分の1くらいだったのに、知らぬ間に急成長している。