「きれいだね~。」
フェリーに乗った私達は、潮風にあたりながら、海を眺めていた。
このあたりの海は島が多くて、周りはほとんどが島。いわゆる多島美というやつだ。
と言っても、これといった観光名所もない私達の島には、時々人混みが嫌いな人が海水浴をしに来るぐらい。
でもまあ、私は、私達の島が観光客で溢れかえっているのは少し嫌だ。私達の島が私達のものでなくなってしまう気がする。元々私のものではないけれど。
そんな私達の島への1日4回の連絡フェリーに乗るのは、通勤通学する島民がほとんど。
でも、今日は違ったらしい。
私達と同世代くらいの男の人が乗っていた。大きなスポーツブランドのボストンバッグを持って海を眺めている。
「あの!」
どこか気になって、話しかけた。もしかしたら変な人だと思われるかもしれないけれど、田舎の人はこんなものだと思ってくれるだろう。
「え?」
見知らぬ人にいきなり話しかけられたのだから、当然の反応だ。
「え、あの、え?」
でも、それにしては、反応が変だ。まるで、どうしてそんな反応なんだと言われているような…。
「あ、ひ、廣斗君!久しぶり!」
「え!?知り合いなの…?」
驚いた。まさか知り合いだったなんて。でも、ずっと島に住んでたのに、知り合いになる機会なんてあったのかなあ。
「やだ、美桜奈ってば忘れちゃったの~??小6の夏休みに来てた観光客の子じゃん。」

全く覚えていないけれど、由佳が言うのならそうなのだろう。私は忘れっぽいし、由佳は賢いから。

「へえ…。全然覚えてないんだよな。」

「えー、美桜奈ってば酷い。ねえ、廣斗君。」

そう肘で小突きながら由佳が言う。
何だか私だけ別の世界にいるみたいだった。
由佳とはずっと一緒だった。由佳が知っていて、私が知らないことなんて、勉強の知識以外にはないものだと思っていた。

でも、私達だってもう高校生だ。人には言わないことはある。
私だって隠し事ぐらいあるし、それどころか常に取り繕ったように過ごしている。
由佳にも隠し事の1つや2つあるはずだ。
 いつまでもいつまでも、一生、隠し事なく、楽しく秘密なく、純粋でいることなんて不可能なのだ。
少なくとも私には。
すぐにこんな思考に走ってしまう私に嫌になる。どうしてしまったのだろう。

「そっか…。」
そう控えめに言う廣斗君?の笑顔は何だか懐かしいようなそうではないような、不思議な感じだった。