話と食事を終えて、マルクエンとラミッタは二階にある別々の部屋へと戻る。

 ふと、マルクエンは部屋の窓を開けた。

 心地よい夜風が流れ込み、マルクエンは思い切り深呼吸をする。

 今日は天気も良いし、このまま窓を開けて寝ようと、マルクエンはベッドに潜り込んだ。




「マルクエン様。マルクエン様!」

 声と同時に何か重いものが自分の上に乗りかかったのを感じたマルクエン。

 何事かと慌てて上体を起こすと、体の上にセロラがまたがって乗っていた。

「ちょっ!? セロラさん!? ど、どうして!?」

「まど、空いてたから来た!!」

 ニッコニコの笑顔で言うセロラ。

「窓が空いていたからって……。ちょっ、まずいですよ!!」

 無邪気な笑顔が、本能からなのだろうか、妖艶な表情に変わる。

「マルクエン様」

 覆い被さって抱きつくセロラ。マルクエンは柔らかい感触と肌のぬくもりを感じていた。

「ちょっ、ちょっと!?」

「マルクエン様、筋肉すごい!」

 指でなぞられて妙な感覚になるマルクエン。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 そんな時だった。隣から物凄い足音がドタドタを聞こえてきて、鍵を掛けていなかったので、部屋のドアがバンと開く。

「ちょっと、何やってんのよ!! ド変態卑猥野郎!!!」

「い。いや違う!! 窓、窓からセロラさんが入ってきて!!」

「今からマルクエン様と子供作る。ラミッタ様邪魔」

 プーッと膨れてセロラが言った。

 その衝撃的な言葉にマルクエンもラミッタも「エェー!?」っと素っ頓狂な声を出す。

「ダメ、ダメよ!! ってか何言ってんのよ!?」

「マルクエン様、嫌?」

「い、いや、嫌というか何と言うか……」

 マルクエンが言うと、セロラは悲しそうな顔をする。

「私、魅力無い?」

「い、いえ、そんな事は無く……」

「じゃあ子供作ろう!!」

「だから待ちなさいよ!!」

 騒ぎを聞きつけた宿屋のおかみ、バムが何事かと二階へやってきた。

「あら、どうなさいました?」

「どうしたもこうしたも! このセロラって子がこのド変態卑猥野郎の部屋に居て……」

 バムはラミッタの指差す室内に目をやると、マルクエンの上にまたがるセロラが目に入る。

「あら、でも防音はちゃんとしていると思いますわ」

「問題はそこじゃない!!」

 クスクスとバムが笑った後に、部屋のセロラに近付く。

「セロラちゃん。物事には順序があるの。まずはマルクエン様の彼女になって、そこからね」

「そうなのか? それじゃマルクエン様! 彼女にして」

「い、いえ、その……」

「まぁまぁ、セロラちゃん。今日はもう夜も遅いし帰りなさい」

 バムに言われると渋々セロラはマルクエンのベッドから降りた。

「わかった。明日また子供作る!!」

「ま、またって!! そんな事身に覚えが無い!!」

 窓から飛び降りるセロラ。まるで嵐が急に来て去っていった様な騒々しさだった。

「はぁ……。つ、疲れた……」

「マルクエン様。申し訳ありませんでした」

「いえ、大丈夫です……」

「まったく、人騒がせな……」

 ラミッタはそれだけ言って部屋に戻っていってしまった。

 今度は窓をしっかりと閉めて眠るマルクエン。

 しかし、どうにも何だか目が冴えてしまい眠れなくなってしまった。




「おはようございます。マルクエン様、朝食のご用意が出来ております」

 寝付きが悪く、寝不足のためか、部屋のノックにも気付かずに眠るマルクエン。

「宿敵、起きなさい」

 一足先に起きていたラミッタは部屋のドアを開ける。

 ベッドの上ではマルクエンが気持ちよさそうに眠っていた。

「ほーら、起きなさいってば」

 体を揺すって起こそうとするも、マルクエンはうーんうーんと言って寝続ける。

「ダメみたいねこれは」

「ご用事があるまでそのままでも結構ですよ」

「そうね……。おかみさん、悪いけど私は先に朝ご飯を頂くわ」

 ラミッタはそう言って一階に降りていく。




「んあっ」

 そんな間抜けな声を出してマルクエンは目が覚めた。

 外を見ると、だいぶ日が登っている。完璧に寝過ごしたなと思った。

 一階に降りると、バムが掃除をしており、マルクエンに気が付くと頭を下げる。

「おはようございます。マルクエン様」

「おはようございます。ッと言っても、結構寝過ごしたみたいですけどね」

 ハハハと笑うマルクエン。つられてバムもクスクスと笑う。

「ラミッタ様は村で聞き取り調査? をなさっているようです。お食事は今ご用意しますね」

「お願いします」

 朝食を食べ終え、マルクエンも外へと出た。

「あ、おーい。ラミッター!」

 ラミッタを見付け、声を掛けるマルクエン。

「おーいじゃないわよ。ネボスケ」

 冷たくあしらわれてしまうが、その通りなのでぐうの音も出ない。

「すまんすまん」

「まぁいいわ。それで、村の人達に箱のことや魔人のことを聞いてみたんだけど」

「それで、どうだった?」

 マルクエンが尋ねると、ラミッタは片目を閉じてため息を付きながら言う。

「魔人が三週間前に来て、箱も落としていったんだって。その時に箱から魔物が溢れたけど、どうにか戦って撃退したって」

「そうだったのか……」

 うーむと考えるマルクエン。

 そんな二人の元に駆け寄る影があった。

「マルクエン様ー!!」

 そう言って飛びかかったセロラは思い切りマルクエンに抱き付く。

「こ、こらセロラ!! マルクエン様に失礼だろうが!!」

 コラーが注意をするも、止まらないセロラ。

 ラミッタはジト目でそんな光景を見ていた。