「こちらが、私達の村です」

 木に周りをぐるりと囲まれて、家がポツポツと建っていた。

「のどかで良い村ですね」

「ありがとうございます」

 コラーはそう言って頭を下げる。

「こんな小さな村ですが、精一杯勇者様のおもてなしをさせて頂きます!!」

「いえいえ、お気を使わずに……」

 ハハハとマルクエンは苦笑いしていた。

「勇者様、二人はツガイなのか?」

 セロラは急にとんでもない事を聞き始めるが、マルクエンはツガイという言葉にピンときていないようだ。

「ツガイ? ツガイって何ですか?」

「人間だと、えっと……。結婚だ!!」

 マルクエンは理解して赤面する。それ以上にラミッタがあたふたしていた。

「ちょっ、な、なに勘違いしているのかしら!? わ、私がこんなド変態卑猥野郎と結婚!? ツガイ!? んなわけないでしょ!!」

「そっか、良かった! 私、強い男好きだ。マルクエン様好きになった!」

 その場に居た全員が「えぇー!?」っと驚きの声を上げる。

「村の男、みんな私より弱い。強いマルクエン様好き、子供作ろう!!」

「ちょっ、こ、子供とは!?」

 マルクエンは思わず変なことを口走った。

「セロラ!! 勇者様に失礼だろう!!」

 コラーはセロラを(たしな)めるが、止まる様子は無い。マルクエンの腕に抱きついて猫のようにスリスリとし始める。

「ちょっと、何してんのよ!!」

 そんな二人を指さしてラミッタが言う。マルクエンは腕に柔らかい感触を覚え妙な感覚になっていくのを感じた。

 コラーが間に入り、何とかセロラを引き剥がす。

「本当に、ほんとーにすみません」

「いえ、お気になさらず……」

 今にも地面に頭を擦り付けそうなコラーを見てマルクエンは同情した。

 改めてセロラをまじまじと見るマルクエン。

 赤みがかったショートカットの茶髪に、猫みたいな耳が頭から生えている。

 顔は童顔で、体はしなやかだ。

 緑色の猟師のような服を着ている。

「マルクエン様、私、好きになったか?」

「い、いえ。その……」

 マルクエンをジト目で見つめるラミッタ。

 セロラの隣りにいるコラーは兵士の服を着ており、装備も国のものだ。

 短く黒い髪にセロラと同じ猫の耳。

 真面目そうな男だという印象を受ける。

「そうだ、改めまして。私はコラーと申します。この村の衛兵をしています!」

「私はセロラ! この村の衛兵してる!」

 コラーはともかく、セロラまで衛兵だと思わなかった二人は驚く。

「セロラさんも衛兵だったのか!」

「そうです。何度言っても兵士の服を着ないものでして……」

「兵士の服、嫌。動きづらい」

 セロラはそっぽを向いて言う。

「まったく……」

 コラーは相当な苦労人なのだろうなとマルクエンは思う。

「そうだ! こんな所で立ち話をさせてはいけません! この村で唯一の宿屋にご招待します!」

「わかりました。助かります」

 コラーが宿屋に案内してくれる道すがら、コラーはマルクエンに話をし続けていた。

「あの、失礼ですが。マルクエン様とラミッタ様は竜を倒した経験があるって本当なんですか!?」

「えぇ、翼竜と……。あとは鉱脈に住む竜を」

 コラーはマルクエン達の方を向き、目を輝かせる。

「凄い!! 噂は本当だったんだ!!」

「マルクエン様、竜倒したか!? もっと好きになった! ツガイになろう!」

「い、いえ、その……。ははは」

 セロラがグイグイと来るのでタジタジのマルクエン。

「魔人も!! 魔人も倒したんですよね!!」

「えぇ、まぁ」

「凄い!! 凄いです!!」

「魔人も倒したのか? やっぱ結婚しよ!!」

 個性の強い二人だなぁと、マルクエンは苦笑いしていた。

 その後、ソワソワしていたコラーだったが、意を決してマルクエンに言う。

「マルクエン様、ラミッタ様、頼みたいことがあるんです。ちょっと……」

「ん? 何でしょうか?」

 マルクエンが聞き返すと、コラーは話し続ける。

「一度で良いから、お二人の必殺技を見たいんです!」

「必殺技……? ですか」

「憧れているんです、勇者様に!」

 輝いた目で見られて、顔を見合わせるマルクエンとラミッタ。

「一回きり見せて頂ければ、それで私は満足します! お願いです!」

「そうですか、まぁ、一回ぐらいならば」

 開けた場所だったので、マルクエンは金色の剣を引き抜いて、空に向かって光の刃を数発飛ばした。

 負けじとラミッタも詠唱を始め、光の剣を空に向かって発射する。

「うわー! 凄い!!」

「凄い!! マルクエン様、ツガイになろう!!」

 キャッキャと喜ぶ二人を見てほっこりするマルクエン。

「ありがとうございました! あぁ、そうだ! 宿屋に行かなくちゃ……」

 本来の目的を思い出したコラーは再び歩き始めた。




「こちらです!」

 案内されたそこは、お世辞にも綺麗な外観とは言えない宿だ。

「さぁ、どうぞ中へ!」

「えぇ、それでは」

 マルクエンとラミッタは、宿屋のドアを通り、室内を見る。

 老朽化はしていたが、小綺麗に掃除はされており、汚いという印象は無かった。

「いい宿ですね」

 マルクエンが言うと同時に、奥から人が出迎えに来る。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました勇者様」

 気品のある中年の女性だ。彼女も亜人であり、頭から耳が生えていた。