無事に勇者として認められた二人。

 そして、国から初任務を与えられる。

「こんにちは。勇者就任おめでとうございます」

 部屋へ入ると、一人の男が立ち上がって拍手をしながら言った。

「申し遅れました。私はコニヤン軍の参謀長を務めさせて頂いております。シガレーと申します」

「マルクエン・クライスです。よろしくお願いします」

「ラミッタ・ピラです」

 互いに一礼し、椅子に腰掛ける。

「さて、早速ですが。お二人にはここから西の森にある魔物の出る箱を破壊して頂きます」

「西にですか」

 マルクエンが聞き返すと、シガレーは頷く。

「はい。国の勇者や軍、実力のある冒険者も雇い箱の破壊をしているのですが、西の森にあるものは特に強力でして」

「なるほど」

 マルクエンは顎に右手を当てて考える。

「わかりました。すぐに向かいましょう」

「頼もしい限りです。馬車を用意させて頂きますので、運転手は必要ですか?」

 シガレーに聞かれると、マルクエンは答えた。

「いえ、何かあった時に巻き込みかねません。私は馬の心得が多少ありますので」

「承知致しました」





 王都を出ると、荷馬車が用意されていた。

「それじゃ運転は頼んだわよ、宿敵」

「あぁ、任せろ」

 マルクエンが馬車を走らせ、西の街道を行く。

 1日掛けて走ったが、まだ森の入口に近づいたぐらいだ。

「今日はここで野宿ね」

「そうだな」

 日が暮れる前に野営の準備をし、二人は食事をし、寝た。

 明くる日、森の中へと入る。

「何だか鬱蒼(うっそう)とした森だな」

「えぇ、体からきのこでも生えてきそうよ」

 道はあったが、ガタガタと揺れが激しい。

「うっ、酔いそう……。私は飛ぶわ」

 ラミッタは馬車から降りて隣を飛び始めた。

 その瞬間だった。殺気を感じた二人。

 マルクエンは馬から飛び降り、ラミッタも剣を抜く。

 森の中から何かが飛び出した。

 ラミッタにそれが襲いかかる。

 とっさに火の玉を十数発撃ち出して牽制を入れると、身を引かせて目の前に立ちはだかった。

「お前ら、魔人だな?」

 その人物は、見た目は女であるが、頭からは猫の耳が生えていた。

「亜人……?」

 この世界で何度か見たことがあるので、二人は特に驚かない。

「魔人と言いましたか? それは誤解です!」

「嘘つけ、私はソイツが空飛ぶの見た」

 曲刀を両手に持って猫耳の女は敵意を剥き出しにする。

「私達は勇者よ。この森の箱を壊しに来たわ」

「黙れ!!!」

 常人の数倍ある速さで突っ込んでくる猫耳の女。

 だが、マルクエンの動体視力の前には無力に近かった。

 一瞬で両手の剣を弾き飛ばし、右手を掴んで後ろに回してねじり上げる。

「なっ!!」

「ちょっと話を聞いてくれますか?」

「バインド!!」

 ラミッタは魔法で猫耳の女を拘束した。身動きができなくなり、倒れそうになるが、マルクエンが支え、ゆっくり地面に置かれる。

「離せ!! 魔人!!」

「だから違うって言ってるでしょ」

 ラミッタは国から発行された勇者の証明書を提示して言う。

「何だそれは!!」

「勇者の証明書よ、知らないの?」

「そんなもの知るか!!」

 どうしたものかとマルクエンとラミッタが考えていると、森の奥から何かが走ってきた。

 森を縫うように駆けて来たのは亜人の群れだ。

「セロラ!! どうした!?」

「コラー!! 魔人だ!!」

 魔人と聞いて亜人の群れは武器を構える。誤解が誤解を生んでしまい、マルクエンとラミッタは頭を抱えた。

「違います! 我々は勇者です!!」

「勇者であれば証明書を持っているはず!!」

「あるわよ、これよ!!」

 距離があったが、視力が良いのか提示されたそれをまじまじと見つめる。

「ラミッタ・ピラ……。マルクエン・クライス……。村に来るっていう勇者と同じ名前だ」

「金髪と白い鎧、茶髪と顔に切り傷。金色の剣。特徴も一致している……」

 コラーと呼ばれた亜人の男は独り言を呟く。

「これは……。失礼しました!!」

「コラー、本当に勇者か!? 私、この女が飛ぶの見たぞ!!」

「それなら、なおさら本物だ。ラミッタ様は空が飛べるらしい」

「ほ、ほんとか!?」

 コラーはマルクエン達に駆け寄り、土下座をしてきた。

「同胞の無礼をお許しください!!!」

 いきなりの事にあたふたするマルクエン。

「そ、そんな。頭を上げてください!!」

 (がん)として頭を上げないコラー。マルクエンはしゃがんで肩を持ち、立ち上がらせた。

 ラミッタも襲いかかってきたセロラという猫耳女の拘束を解く。

「こちらも誤解をさせてしまい申し訳ない」

 互いに落ち着いた様なので、マルクエンは話し始める。

「勇者様、ごめんなさい」

 セロラもすっかりシュンとして落ち込んでいた。

「いえいえ、仕方がないですよ」

「勇者様、凄い強い。箱壊して欲しい」

「えぇ、その為に来ましたので」

 マルクエンが言うと、亜人達の顔が明るくなる。

「本当にありがとうございます!! では、早速ですが村までご案内致します!!」

 コラーはそう言って先導してくれたので、マルクエンは馬車を走らせた。

 しばらくすると、森の中が開け、村が見える。