ヴィシソワも槍と盾を呼び寄せ、地上戦が始まる。

「さぁ、どこからでもどうぞ」

「えぇ、では早速!!」

 マルクエンは青いオーラを身に纏い、ラミッタの戦いを真似て、光の刃を飛ばしてから、同時に自分も突っ込んだ。

 しかし、ヴィシソワは。なんと光の刃を指先で(つま)んで投げ返してきた。

「なっ!?」

 慌てて避けるマルクエン。そんな彼にヴィシソワは言う。

「あなたのこの技も魔法の一種。光魔法のようなものですね」

 マルクエンが驚き、固まる。

「まさかとは思いますが、自分で使っていて知らなかったとでも?」

 図星だ。マルクエンは言い返せずにバツの悪そうな顔をする。

「まぁ良いでしょう。魔法ということは、反射も出来る」

「肝に銘じます……」

「さぁ、お話はここまで。掛かってきなさい!!」

 新調したばかりの剣を振り上げ、マルクエンが駆け出す。

 頭上に剣を構え、振り下ろす一撃に全てを掛けた。

 マルクエンの剣技の一つ、盾割りだ。

 その刃はヴィシソワの盾を確実に捉えていた。だが。

「ほう、これは中々ですね」

 戦場でいくつもの盾を破壊してきたこの技でも、魔力で強化された盾は壊れることもなく。ヴィシソワの手から弾かれる事もなかった。

 驚くことも、落ち込む時間もなく、ヴィシソワが槍を振り回してくる。

 マルクエンは急いで剣を引き寄せ、槍から身を守った。

 ヴィシソワが間合いを取ると、今度は槍で連続突きを繰り出す。

「ぐっ」

 マルクエンはまずいと思った。完全に槍の間合いであり、剣では攻撃が届かない。

 ここで踏み込まずに、あえて更に距離を取り、連続して剣を振るって光の刃を飛ばした。

 何度も弾かれ、避けられするが、マルクエンは螺旋(らせん)状に走りながら光の刃を出す。

 ぐるぐると周りながら、少しずつ距離を詰めるマルクエン。

 剣の届く距離まで近付くと、一気に一歩踏み出して斜めに斬り上げた。

 その一撃も軽々と盾で弾くヴィシソワ。

 だが、マルクエンは諦めずに何度も攻撃を入れた。

 人を遥かに凌駕(りょうが)したスピードで斬って突いて叩きつけて。

 ヴィシソワも弾き避けて盾で防ぐ。

 一瞬の隙もない攻防戦だ。それを10分ほど続けていた時に、急にマルクエンの動きが遅くなり、体に力が入らなくなった。

「なんだ!?」

 カクッと膝が言うことを聞かずに曲がり、地面に突っ伏す。

「魔力切れ、ですね」

 ヴィシソワは槍を突きつけながら言う。

「光の刃も、その青いオーラも。膨大な魔力を使う」

 普段から身体強化の魔法を使っているマルクエンですら。戦い続けると、動力が切れたかのように、こうなってしまうようだ。

「お話になりませんね。今日はここまでです」

「も、申し訳ない」

 指の一本も動かせないマルクエンは蚊の鳴くような声で言った。

「私は行きます。しばらくそこで反省なさい」

 ヴィシソワはどこかへ飛び去ってしまう。マルクエンは未熟さと惨めさを感じながらうつ伏せに地面に横たわっていた。

 昼前に魔力を(ほとん)ど使ってしまったとは言え、屈辱的だ。情けなさを感じる。

「宿敵!! 居るの!?」

 声が聞こえる。ラミッタだ。

「宿敵!!」

 一歩一歩階段を降り、闘技場の中で倒れているマルクエンを見ると、ラミッタは駆け寄ろうとした。

 だが、上手く体が動かず、つまずいて転んでしまう。

「ラミッタ!? 大丈夫か!?」

 姿はうつ伏せになっているので見えないが、大きな音は聞こえた。

 だが、マルクエンの絞り出した声はラミッタに聞こえていないようだ。

 立ち上がり、ラミッタはマルクエンの元までやって来る。

「宿敵!! 無事なの!? 宿敵!?」

「あぁ、大丈夫だ」

「何が大丈夫なのよ!!」

 マルクエンの弱々しい声を聞いて、ラミッタはそう言う。

「魔力切れだ。情けない」

「……。情けなくなんか無いわ。本当に情けないのは気を失っていた私よ」

「ラミッタ……」

 マルクエンを担いで部屋に連れて行こうとするラミッタだったが。今は引きずる元気すら無い。

「ラミッタ。大丈夫だ。動けるようになったら部屋に戻る」

 そんな言葉を聞いているのかいないのか、ラミッタはマルクエンを横から押して、やっとの思いで仰向けにさせる。

 上半身を起こさせ、頭の下に自分の膝を滑り込ませた。

 マルクエンはラミッタの顔が見えた。優しそうな、泣きそうな表情をしている。

「ラミッタ……?」

 マルクエンは今、ラミッタに膝枕をされている。

「ラミッタ。お前が大変だろう。私は大丈夫だから……」

「うるさい」

 ラミッタの膝は、暖かくて柔らかくて、優しさに包まれている気分だ。

 何だか心地の良い匂いまでする気がする。

「何だか、心地よくてこのまま寝てしまいそうだ」

 ハハッと力なくマルクエンが笑うとラミッタはそっぽを向く。

「……いいから」

「ん?」

「寝ても……、いいから」

 マルクエンは仰向けでラミッタの顔を見ながら言う。

「そうだな、子守唄でも欲しい所だな」

 ラミッタは何かを考えてから。

「地に生まれし 愛しき我が子よ」

 歌を歌い始めた。マルクエンは驚いて目を丸くする。

「ら、ラミッタ!?」