「ともかく、魔人も魔王も人類の敵です。一刻も早く討伐せねばならない」

 マスカルは真面目な顔で、自分自身にも言い聞かせるように言った。

 その後は取り留めもない会話をし、食事は終わる。

 マルクエンの部屋へと戻り、二人は会話をした。

「魔人と魔王、宿敵。アンタはどう思う?」

「どうって言われてもな……。正体すら分からない相手にどうやって辿り着いたものか……」

「そうよねぇ」

 ラミッタは片目を閉じてため息をつく。

「まぁ、考えてたって仕方ないわよね。今はあのヴィシソワって奴を倒すことだけ考えましょう」

「そうだな」

「それじゃおやすみ」

「あぁ、おやすみラミッタ」

 ラミッタは部屋に戻り、マルクエンは備え付けのシャワーを浴びて、明かりを消して寝た。




 翌日、定刻になると音がなる石によってマルクエンは目覚める。

「うーん、朝か」

 ラミッタと共に、やって来たメイドに食堂へ案内されると、昨日と同じく既にマスカル達が居た。

「おはようございます」

 マルクエンが挨拶し、返事が返ってくる。

 朝食が終わり、茶を飲んでいる時。唐突にマスカルが言う。

「さて、お二人とは少しの間お別れになります」

「お別れですか?」

 ラミッタが聞き返すと、マスカルは(うなず)いた。

「えぇ、我々は各地に魔人の残していった箱を破壊せねばなりません」

「そうですか……。そうですよね……」

 マルクエンは魔人の残した箱のことを思い返す。

「それでは、お二人のご武運を願います」

「えぇ、マスカルさん達も。どうかお元気で」

 マスカルから差し出された手を握り、ラミッタは言った。

 アレラが内心喜んでいるマスカルを察してクスクスと笑う。



「さて、準備は良いかラミッタ」

「えぇ、大丈夫よ」

 二人はヴィシソワが待つ地下の闘技場入り口まで来ていた。

 微かな明かりが照らすその先に彼は待つ。

「おや、おはようございます」

 ヴィシソワは長い黒髪を掻き上げて挨拶をする。

「おはようございます、ヴィシソワ……さん?」

 マルクエンはヴィシソワに敬語を使うか迷ったが、人類の味方というので一応さん付けしてみた。

「名前を覚えて頂いて光栄です」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてヴィシソワは空に飛び上がる。

「さて、早速やりますか」

 それを見てマルクエンもラミッタも剣を引き抜くが。

「と、言っても。このままでは同じ事の繰り返しです」

 ふぅーっとため息をつくヴィシソワ。

「あなた方には訓練を行います」

「訓練ですって?」

 ラミッタが聞き返す。

「えぇ、訓練です。まず、ラミッタさん。あなたの空を飛ぶ速度はあまりに遅い。遅すぎる。まるでカタツムリが空を飛ぶかのよう」

 ヴィシソワの言葉にラミッタは心底イラッとしていた。

「ラミッタさん。今から私が良いと言うまで空を飛び続けて下さい」

「わ、わかったわ」

 一度負けた相手なので、ラミッタは大人しく従う。早速、空を飛び始めた。

「そして、それより酷いのは空も飛べないアナタですよ。マルクエンさん」

 ウッとマルクエンは苦い顔をする。

「あなたはそこの防御壁に向かって光の刃を飛ばし続けていなさい」

「わかりました」

 ヴィシソワが作った防御壁に向かい。マルクエンは剣を振るった。



 一時間もすると、ふたりとも息が上がっていた。

 ラミッタは今にも地面に降りて座り込みたい気分だ。

 マルクエンの光の刃は魔力も使うのだろう。普段は身体強化にしか魔力を使わないマルクエンにとって慣れないもので、非常に辛かった。

 ラミッタの高度と速度が落ちてきたので、ヴィシソワはラミッタに向かって炎を放つ。

「あぶなっ!! 何すんのよ!!」

「あなたが遅いからですよ」

 炎に追いかけ回され、ラミッタは力を振り絞り、速度を上げて飛ぶ。



 二時間半が経ち、二人の魔力がすっかり空になったのを察したヴィシソワが言う。

「まぁ、ひとまずここまでで良いでしょう」

 その言葉と同時に、ラミッタは地上に降り立ち、仰向けに寝転がる。

 マルクエンも膝をついて荒い呼吸をしていた。

「ラミッタ、無事か?」

「こんなに酷い訓練は……。スフィン将軍に鍛えられた時以来よ……」

「私も……。師匠に鍛えられた時以来だな」

「もう音を上げたのですか? 情けない。昼食を食べたらまた訓練ですよ」

 その言葉にラミッタは絶望した。

「ラミッタ、行こう」

「ま、待って……。立てない……」

 ラミッタは魔力をほぼほぼ使い切ってしまい、立ち上がることが出来ない。

「さっさと連れて行きなさい」

 仕方なく、マルクエンはいつぶりだろうか、ラミッタを抱きかかえ、お姫様抱っこした。

「宿敵……。ごめん」

 強がる元気もないのか、申し訳無さそうにしているラミッタ。

「気にするな」

 マルクエンが歩き、地上に上がる前に、ラミッタは腕の中で意識が途絶えてしまった。



「おや、ラミッタさんはどうしたのですか?」

 地下に一人で戻ったマルクエンは尋ねられる。

「ラミッタは目が覚めなかったので、ベッドに寝かせてきました」

「情けない。それではあなたが二人分の訓練を受けてもらいますよ」

「えぇ、望む所です」

 マルクエンも本当は今すぐにでも寝て休みたいが、強がり、剣を構えた。