ラミッタはベッドに腰掛け、マルクエンはソファに座り、互いに向かい合う。

 今回の敗因についてマルクエンがうーんと唸って考えた。

「そうだな、やはり私が出した光の刃が邪魔をしたかもしれないな」

「私も、あんな盾に捕まると思わなかったわ」

 ラミッタも額に手を当てて自分の醜態を思い出す。

「何ていうか、私達、ちょっと調子に乗っていたわね……」

 言われてマルクエンも頷く。

「あぁ、今まで魔人を倒し続けていたからな」

 その返答に、ラミッタは半分同意していたが、それ以外の事もあった。

「相手の能力を知る前に積極的な攻撃を仕掛けた。それもあるけど、私達は新しい能力に頼りすぎていたわ」

 マルクエンはその言葉にハッとして行動を思い出す。

「確かに……。私は空を飛ぶ相手を倒そうと、光の刃を出し続けていた」

「私は空飛んで戦いを挑んでいたわ。相手の方が空中戦では上手なのにね」

 二人はため息をつく。何でそんな戦い方をしたのだろうかと。完全に調子に乗っていたと言わざるを得ない。

「魔人相手には地上で戦った方が良いのか?」

「いや、空から一方的に攻撃をされるだけよ。遠距離の戦いでは高所を取った方が基本的に強いわ。忘れたのかしら? 騎士様」

「わ、忘れてはいないが……」

 忘れていたマルクエンだったが、とっさに嘘をついてしまった。それを誤魔化すように続ける。

「地上に挑発して下ろすか、地上から攻撃するか」

「どちらにしろ、魔人に対して人間は不利ね」

 ラミッタは目を(つむ)って考えた後に、言った。

「私、もっと上手く飛べるようになるわ」

「そうか、私も何かしら戦う策を考えよう」

「今日はもう休もうかしら、色々とあって疲れたわ」

「あぁ、そうだな」

 二人は夕食時まで各々の部屋で休むことにする。



「マルクエン様、お食事の用意が出来ました」

「えぇ、今行きます」

 部屋をノックされ、マルクエンは外に出る。ラミッタは先に居たようだ。

「よく眠れたかラミッタ?」

「寝てるわけないでしょ。考え事だらけよ」

「あっ、そうか、すまん……」

 てっきりいつの間にか寝てしまっていた自分と同じく、ラミッタも眠っていたものだと思っていたマルクエンは少し恥ずかしそうにする。

 客用の食堂にはマスカル達も先に座って待っていた。

「こんばんは。ラミッタさんはお体は大丈夫ですか?」

「えぇ、平気です。ご心配ありがとうございます」

 マスカルに言われ、そっけない態度を少し改めたラミッタはそう言う。

「念のため、食後まで試験の話題は無しでお願いします」

 マルクエンはマスカルの言葉にハッとしていた。思いっきりマスカルもヴィシソワと戦ったのか聞こうと思っていたのだ。

 危ない危ないと一人肝を冷やすマルクエン。

 食事が運ばれてくる。城の夕飯と言うだけあり、かなり豪華なご馳走だ。

 肉や魚、新鮮な野菜を堪能し、デザートと食後のお茶が運ばれ、マスカルは人払いをする。

「アレラ、音消しの魔法を」

「もうやってますよー」

 笑顔をアレラはマスカルに返す。

「さて、これでどんな会話も大丈夫です」

「そうですか、それでは。お聞きしたいのですが、マスカルさんもあのヴィシソワという魔人と戦ったのですか?」

「えぇ、我々もヴィシソワとは戦いました」

 マスカルがそう言い、続けた。

「半年です」

「半年?」

「我々がヴィシソワに認められるまでです」

 聞いたラミッタが驚いた顔で言う。

「えっ、本当ですか!?」

「えぇ、修行を重ねてやっと魔人に対抗できる力を身につけました」

 部屋がしんと静になる。

「ですが、お二人にはもっと早く勇者として、魔人に対抗する力を持って頂かなければならない」

「何故、そこまで急ぐのですか?」

 ラミッタが聞いてみると、答えが返ってきた。

「……。時間が無いのです」

 その言葉を聞いて、今度はマルクエンが話す。

「時間……。ですか?」

「えぇ、こうしている間にも魔人は各地で暴れ、魔物が現れる箱をばら撒き、国を破壊しようとしています」

 今度は別のことを聞こうと、ラミッタは話しかける。

「あの、魔人の目的は何なのでしょうか」

「魔人の真の目的は誰にも分かりません。彼等は生まれつき破壊を楽しみます。ヴィシソワは異例みたいなものですが」

 マスカルの言葉に、アレラが補足して話す。

「魔人は、どうやって生まれるか分かっていないんですけどねー。ヴィシソワも気付いたら生きていたなんて言ってますしー」

「謎が多いんですね……」

「それに、魔人も脅威ですが。やはり一番は魔王です」

 ゴーダが短く言う。マスカルもそれに乗っかって話し始めた。

「えぇ、魔王は人類の最大の強敵です」

「その、魔王ってどういった者なのですか?」

 マルクエンの質問に、マスカルは首を横に振る。

「それが、全く持って分からないのです。ただ、魔王という存在は確実に居る。それだけは確かなのですが」

「正体不明……、って事ですか」

 ラミッタは確認するように口に出した。

「えぇ、ラミッタさんの言う通り。正体不明。どこに居るのか、何が目的なのかも」

 アレラはニコニコしながらそんな事を言い、お茶を飲んだ。