勢いを付けたことにより、倍ぐらいの速度で飛ぶことが出来たラミッタ。

 火炎を打ち出しながら、それと同時にミネスへ突っ込む。

「追いかけっこでもしようか?」

 敵はあえてラミッタの直線上を飛び続ける。

 段々と速度が落ち、追いつけなくなるラミッタ。代わりに魔法を打ち出して追尾させた。

「そんなもの当たらないよー」

 ミネスは舌を出してあっかんべーと挑発を続ける。

「ムカつくわね」

 言葉ではそう言ったが、ラミッタは極めて冷静だ。

「ねー、空も飛べるんだし、魔王軍に入ってよ! 今なら三食昼寝付きで、住む場所もあるし、福利厚生バッチリだよ?」

「お断りするわ」

 ラミッタは言葉と共に雷を放つ。

 空では追いかけっこが始まっていたが、地上のマルクエンは次から次へと襲いかかってくる狼型の魔物と戦いを繰り広げていた。

「うおおおおお!!!!」

 また一匹、脳天に突きをお見舞いして絶命させる。

「くそっ、きりが無いな……」

 体力も気力もまだまだあったが、終わりの見えない戦いと上空のラミッタの身を案じて少し不安になるマルクエン。

 その瞬間だった。マルクエンの体が青白く光る。

「これは……!!!」

 塔で授かった力だ。身は軽くなり、力が(みなぎ)ってきた。

 背後から飛びかかる狼型の魔物を裏拳で殴る。軽く十メートルは吹き飛んだ。

「掛かってこい!!」

 マルクエンは思い切り剣を振るう。その時起きた現象にマルクエンは言葉を失った。

 刃の軌道をなぞるように、光が現れ、そのまま飛んでいく。

 その光に触れた魔物は斬撃を食らったように切れてしまった。

 光は貫通し、次々に直線上の魔物を斬り裂いていく。

「な、なんだこれは!?」

 考えたいが、押し寄せる魔物の群れがそれを許さない。

 もう一度ありったけの力を込めて剣を振ると。またも光の刃が飛び出した。

「これが試練の塔で授かった力とでも言うのか……」

 マルクエンは自身を囲む魔物を見て、ふと思い付く。

「何かよく分からんが、くらえ!!!」

 マルクエンは剣を横に持ってぐるりと一回転する。

 光の刃が円状に広がり、一気に魔物を駆逐していく。

 チラリとその様子を見ていたラミッタは驚いていた。

「何あれ!? あんな事出来るの宿敵は!?」

「よそ見しないでー。でもボクもビックリだよ!」

 ミネスは腕を組んでうんうんと頷く。

 そんなミネスを見上げて、マルクエンは光の刃を飛ばした。

「うわっ、あぶなっ!!」

 ミネスはそれを避けるも、渋い顔をして言う。

「なんだか危なくなってきたなー。今日はここぐらいにしておくよ」

 そのまま物凄い勢いで、遥か彼方まで飛んでいってしまった。

「宿敵、なにそれは」

「いや、私も知らん……」

「知らんって……。それが宿敵が得た能力なのかしら」

 辺り一面には狼型の魔物の死体だらけだ。

「とりあえず。ギルドに報告かしら?」

「あぁ、そうだな……」





 ギルドへと戻った二人は先程のことを報告することにした。

 順番が来たので、受付嬢と話をする。

「お待たせ致しました!」

「クエストを受けたの者なのですが」

 ギルドの身分証を提示してマルクエンが言う。

「えーっと、マルクエンさん! クエストは無事終わりましたか?」

「はい、終わったことには終わったのですが……。その、魔人に襲撃をされまして」

 マルクエンが言った瞬間。受付嬢が笑顔のまま四秒ほど固まった。

「ま、ままま、魔人ですか!?」

 大声を出すので、ギルド中の注目がこちらへと向けられる。

「え、えぇまぁはい」

「な、何故魔人だと分かったのですか!?」

「以前も戦ったことがありまして。ミネスという魔人です」

「以前戦ったァ!? じょ、冗談ですよね?」

 そこで別の受付嬢がやって来た。

「この方達は、龍殺しのパーティのマルクエンさんとラミッタさんよ」

「龍殺しィ!? ですか!?」

「え、えぇ、そう呼ばれているらしいですね」

 注目を受けている恥ずかしさでマルクエンは顔を赤くして頭をかく。



「なるほど、犬型から狼型の群れになって、討伐は終わったと……」

 だいぶ落ち着いてきた受付嬢は状況を理解したようだ。

「大変でしたね。ともかく、お怪我が無くて何よりです」

 マルクエンとラミッタは報奨金を貰って視線を感じるギルド内を後にした。

「何かお腹すいたわね。何か食べていきましょうか?」

「あぁ。だが、マスカルさんに魔人が現れた事を報告しなくては」

「報告しなくてはって言ったって、どこに居るか知っているの?」

「あっ……」

 そう言えばどこに居るのか聞いていなかったなと思うマルクエン。

「夜になれば会えるんだし、先に何か食べましょう」

「そうだな……」

 飲食店通りまで足を伸ばす二人。色々な料理屋があって目移りしてしまう。

「何系が食べたいとかある?」

「パスタが久しぶりに食べたいな」

「パスタか……。まぁいいわ。それにしましょう」

 自分の提案にすんなり乗っかるラミッタに、何だかマルクエンは違和感を覚えた。

「随分と素直じゃないか?」

「別に、疲れているだけよ」

 ラミッタはキッと睨んで言う。あぁ、いつものラミッタだなと安心するマルクエン。