マルクエンは剣を構えて精霊に突進した。そのまま縦に振り下ろすと、軽々と一刀両断される。

 次の精霊も、剣で薙ぎ払い。観衆からは「おぉー」っと感心の声が上がった。

「宿敵、そろそろ交代しなさい」

 夢中で精霊を倒し続けていたマルクエンをラミッタが制止する。

「あっ、あぁ、すまんな」

 マルクエンがハハハと照れ笑いをしながら戻ってきた。

「それじゃ、私も行きますか」

 ラミッタも背中の剣を引き抜いて、まずはブンブンと振り回してみる。

 ヒュンヒュンと風を切る音がして、剣は意のままに動いてくれた。初めて握るのに、手にしっくりと馴染む。

 次に、丸太に向かって走り、空中で横に一回転し、勢いを付けて叩き斬る。

 スパッと斬られ飛んでゆく丸太。そのままの勢いで精霊とも対峙した。

 加速の魔法を使い、目にも留まらぬ速さで精霊を斬り捨てていく。

「よし、私はこんなもんで良いわ」

 ラミッタは髪をなびかせながらスタスタと歩いてくる。

「お二人共、剣の具合はいかがでしたか?」

 勇者マスカルに聞かれ、マルクエンは答えた。

「えぇ、とても良い剣です。切れ味も申し分ないし、重さもちょうど良い」

 ラミッタも片目を閉じて言う。

「まぁまぁ、良いとは思います」

 そんな二人の回答を得て、マスカルは頷いた。

「それでは。王との面会まで、ご自由に肩慣らしをして頂いて結構です。ギルドのクエストも自由に受けて結構ですよ」

「わかりました」

「では、私達は書類仕事がありますので」

 アレラの言葉通り、マスカル達は近況報告を国にしなくてはいけない。

 ここでマルクエンとラミッタはマスカル達と別行動を取ることになり、ギルドのクエスト募集ボードを見た。

「何か魔物の討伐でもあれば良いんだけど」

 剣を振るいたくてウズウズしている二人はそんな募集を探していた。

「あ、これなんてどうだ?」

 犬型の魔物が群れでいるので、その討伐といった内容だ。

「まぁ、いいんじゃない?」

「よし、決まりだな!」

 マルクエンはウキウキでその依頼書をギルドの受付へ持って行く。





「ここでいいのか?」

 二人は犬型の魔物を倒すため、渡された地図に載っていた地点までやって来た。

「えぇ、いいはずよ。それじゃ魔物寄せの魔法を使うわ」

 そう言ってラミッタは手を空にかざし、何かを唱える。

 しばらくすると、辺り一帯の魔物が押し寄せてきた。

「それじゃ行くわよ」

「あぁ!!」

 マルクエンとラミッタはスライムやゴブリン。クマ型の魔物といった下級の魔物を切り捨てる。

 だが、本命の犬型の魔物が現れない。

 ここにはもう居ないのかと思っていた矢先、ラミッタは遠くから近寄る気配を感じていた。

 だがそれは、一つで、恐ろしく早い速度だ。

「宿敵!! 魔人よ!!」

「なんだって!?」

 マルクエンは空を見上げる。遥か彼方からやって来た人影は、頭上で止まった。

「はぁーい、ハローハロー!!」

「貴様は確か……」

 奇術師の格好をした魔人を見てマルクエンは名を思い出そうとする。

「僕の名前忘れちゃったの!? ひどーい!! ミネスだよミーネースー!!」

「心配しないで。もう名前なんて必要ないようにしてあげるわ」

 ラミッタは空を飛び、ミネスを斬りつけようと近付く。

「えっ!? ちょっと待って!? キミ、飛べるの!?」

 不意を突かれて慌てるミネス。ラミッタの奇襲攻撃が決まりそうだったが。

「危ない危ない」

 魔法の防御壁を貼ってから、身をひらりと躱すミネス。

 ラミッタは空を飛べるようになって日が浅い。まだまだ相手の動きについて行けていないみたいだ。

「っく、このっ!!」

 ミネスは俊敏な動きで空を飛んで、ひらひらと手を振って挑発までしている。

 ラミッタはと言うと、ミネスの半分程度の速度しか出ていなかった。

「あーそうそう。マルクエンくんだっけ? キミも退屈しないようにしておいたからさ」

 そう言われて辺りを見るマルクエン。

 犬型の魔物……。というよりは、大きな狼のような魔物に取り囲まれていた。

 おそらくミネスが魔物の群れに何か細工をしたのだろう。

「お気遣いありがとう。これで退屈せずに済む」

 マルクエンはニッと笑い、剣を構えて周囲を囲む狼の魔物と対峙した。

 先鋒らしき数匹がマルクエン目掛けて飛びかかる。

 重心を低くし、マルクエンは踏み込んだ。次々に狼の魔物を斬り捨て、逆に群れへと飛びかかった。

 胴体から真っ二つにし、突いて串刺しにし、魔物を蹴散らしていく。

「それじゃ、キミは僕と遊ぼうか」

 ミネスはボールを取り出してジャグリングを始める。

「出た、ダサい技」

「なっ、ダサいって言うな!! マーダージャグリング!!!」

 ボールからは水と雷が飛び出し、ラミッタを襲う。

 雷の魔法は方向を定めるのが難しい。それを補うために、水に雷を伝わせて、威力と命中精度を上げているのだ。

「魔人のくせに、基礎みたいな魔法の使い方するのね」

「しらないの? 極めたら一番シンプルな事が強いんだよ?」

「あら、それには同意するわ」

 ならばお返しは避雷針代わりの氷魔法を辺りに散らばらせる事だ。

 水と雷はラミッタから逸れて、周りに着弾する。

 ラミッタは背後に魔法の防御壁を展開し、それを蹴って勢いを付けた。