「む、美味いな」

 飴をペロリと舐めてみるマルクエン。

「そう言えば、こういう棒付きのお菓子って食べ歩きして転ぶと、喉に棒が刺さって死ぬって言うわよね」

 ラミッタの言葉を聞いたマルクエンは顔が真っ青になる。

「ほ、本当かラミッタ!? どうしよう、どこかで座って食べよう!! そうしよう!!!」

「いや、気を付けて食べれば大丈夫でしょ……」

「だ、だが、万が一も……」

 面倒くさくなったラミッタは、はいはいと返事をした。

「分かったわよ、あそこのベンチに座って食べましょう」

 二人はベンチに座ってハート型の飴を舐めている。

 流れでやってしまったが、ラミッタは自分達が周りからどう見られてみるのか、ふと考えてみた。

 男女が、ベンチに隣同士に座り、同じ飴を舐めている。

 しかも、ハート型。

 ラミッタは顔が赤くなり、(うつむ)いた。

「どうしたラミッタ?」

「なっ、なんでもないわよ!!!」

「そうか?」

 マルクエンは脳天気な顔で飴を舐める。ラミッタは何だかそれが腹立たしかった。

「アンタがド変態卑猥野郎だって事を再認識しただけよ」

「なっ!? 変態要素あったか!?」

 心地よい日差しを浴びながら飴を舐め、道行く人々をぼーっと眺める二人。

「何だか、こう、久しぶりにのんびりとしているな」

「えぇ、そうね」

 こんな時間も悪くないかとラミッタは思っていた。



 飴を食べ終わり、二人はベンチから立ち上がる。

「さて、街を見て回らなくてはな」

「目的を忘れてないかしら? 街を見ることじゃなくて、必要なものを探すことよ?」

「あっ……。あぁ、忘れていないぞ!」

 コイツ忘れていたなとラミッタはジト目でマルクエンを見た。

 ラミッタとマルクエンはそれぞれカバン半分ほどの荷物を作り、ホテルへと戻る。

 ロビーで茶を飲みながらしばらく待っていると、勇者マスカル達が現れた。

「おや、お待たせ致しました」

「いえいえ」

 マルクエンは立ち上がり、マスカルにそう返す。

「ちょうど夕食の時間ですね」

「えぇ、そうですね」

 腹がすいていたマルクエンは夕食を楽しみにしていた。

 勇者が宿泊するだけあり、一流のホテルで出てくるそれは、見事に美味い。




「本当は個室を取ろうかと思っていたのですが、万が一にも魔人の襲撃が無いとも言えませんので」

「そうですね、確かに……」

 マスカルが取ったのは、二部屋。マスカルと剣士のゴーダ、マルクエンのむさ苦しい男部屋が一つ。

 そして、魔道士のアレラとラミッタの女部屋だ。

 何を話せば良いのか気まずいマルクエン。それは、隣の部屋のラミッタも同じだった。

 二人部屋で、特に話もしたことの無い相手で、どうするかと考えている。

「ラミッタさん?」

「あっ、はい。なんでしょう?」

「何かお考えごとですか?」

 クスクスと笑いながら話しかけてくるアレラ。年は知らないが、ラミッタよりも上だろう。

「特にこれと言って考え事はしていませんね。あと、敬語でなくて結構ですよ」

「あら、そう? なるべく使わないようにするわ」

 何処となく掴みどころのない印象を持つアレラ。いつの間やら、お茶を入れてくれていたらしく、お盆に乗せてラミッタの元へやって来た。

「ありがとうございます」

 目の前に置かれた紅茶を見てラミッタは礼を言う。

「お砂糖はどう?」

「えぇ、頂きます」

 角砂糖を3つ溶かし、スプーンで混ぜて口をつけた。

「ラミッタさんの事、色々お伺いしても良いかしら?」

 正面に座り、アレラも紅茶を一口飲んで話し始める。

「伺うと言われましても……。私の事は(ほとん)ど話してしまいましたよ?」

 ラミッタが言うと、アレラはクスクスとまた笑う。

「確かに、ラミッタさんがこの世界へ来た経緯は聞きましたけど、ラミッタさん自身の事をまだ聞いていないわ」

「私の事なんて聞いてもつまらないと思いますよ?」

 面倒だからという訳ではなく、純粋にそう思ったラミッタは素直な言葉を口にする。

「でも、聞きたいわ」

 優しい笑みで言われ、観念するラミッタ。

「それでは、何からお話しましょうか?」

「そうね……。気になっていることは色々あるけど、やっぱり一番最初に聞きたいのはマルクエンさんをどう思っているかについてね」

 マルクエンの名を出され、ラミッタは一瞬。焦りそうになるが、冷静さを保つ。

「あいつは宿敵です。それだけですよ」

「あら? そうなの? でも、それって昔に居た世界でのお話じゃないかしら?」

「今でも奴は宿敵です。一時的に協力関係を結んでいるだけで……」

 ラミッタがそこまで言うと、アレラはニヤニヤとして話す。

「そうなの? それは良かった! 私、マルクエンさんの事、気になっていたのよねー」

 思わず紅茶を吹き出しそうになり、咳き込むラミッタ。

「なっ、いやいや、アレラさん!! アイツは、アイツだけは辞めたほうが良いですよ!!」

「どうしてかしら? お顔もスタイルも良いし、物凄く見た目が好みなのよね」

「いや、ですが……。騙されてはいけません!!」

「ふーん。お顔とスタイルが良い事は否定しないのね」

 しまったとラミッタは思った。まんまと誘導尋問に引っかかった気分だ。