見渡す限りの緑と、咲き誇る花の景色をマルクエンとラミッタは歩む。

 この世のものとは思えない絶景だ。

「こんな景色の中を歩くってのは、嫌な気はしないな」

「えぇ、そうね」

 柔らかな日差しを浴びながら歩いていると、まるで夢の中にいる気分だった。

 道なりに進んでいくと、大きな扉が現れ、マルクエンは押し開ける。

 階段を登って次の部屋は、先程とは打って変わって澄み渡る夜空の草原だ。

「これは……」

 空を見上げると、満天の夜空が見える。

「塔の中なのにどうなっているのよ……」

 ロマンチックな光景は、嫌な気分ではないが、ラミッタはそう呟く。

 星が近い、まるで標高の高い山の上に居るかのようだ。

「少し、休憩でもするか?」

「えぇ、そうね」

 そう言って草むらの上に寝転ぶラミッタ。マルクエンもそれに習い、寝転んでみた。

 星がまばゆく輝き、流れ星も見える。

「ねぇ、宿敵。流れ星が消える前に3回お願い事をすると叶うって知ってる?」

「いや、初めて聞いたな」

「そう……」

 寝転びながら額に腕をやるラミッタ。

「ねぇ、宿敵。アンタなら何をお願いする?」

「私か……」

 マルクエンは流れ行く星を眺めながら考えた。

「そうだな、今のところは、やはり魔王討伐かな。後は元の世界に帰ってからも平和に過ごせるようにと」

「長すぎじゃないそれ? 流れ星なんてあっという間に消えちゃうんだから無理よ」

「そうか……」

 しばらく沈黙が続き、ラミッタが口を開く。

「願い事ってさ、何か1つ、短いものしか叶わないのかもしれないわね」

「そうかもしれんな……」

 マルクエンはふと、気になり尋ねた。

「ラミッタは、何か願い事でもしたのか?」

「ここは塔の中よ? この夜空は幻。それに、本物だったとしても、3回言うだけで願いが叶ったら苦労しないわよ」

「そうだとしても、何か願い事は無いのか?」

 ラミッタは少し間を置いてから話す。

「教えない」

「何だそりゃ」

 マルクエンは軽く笑い、ラミッタは上半身を起こした。

「はい! 休憩終了!」

「そうだな、行くか」

 マルクエンも体を起こし、身についた草や土を手で払う。

 星空に見守られながら、二人は歩く。空が段々と明るくなり、夜明けが近いみたいだった。

「そんなに時間が経ってないのに、もう夜明けかしら?」

「変な感覚だな」

 遠くに日の出が見える。太陽が赤く二人を照らした。

 光の下でラミッタの顔を見るマルクエン。元から整った顔だとは思っていたが、何だかより美しく見えた。

 景色の果てに、扉がポツンと置いてある。

 押し開けて、階段を登る。今までより更に豪華な扉が待ち構えていた。

「これで最後だと思いたいわね」

「あぁ、そうだな」

 開けた先は、どこかの神殿の一室のような、大きな石を切り崩して造った柱に、赤い絨毯が一直線に敷かれている。

 部屋の奥には大きな噴水が見えていた。

「この先に待ち構えているのかしら?」

「あぁ、気を引き締めて行くぞ」

 一歩一歩、噴水へと近づくマルクエンとラミッタ。

 眼前まで来ると、噴水から光が溢れ、宙を舞う。

 警戒して剣を引き抜くが、その光は一点に集中し始め一際眩しく光ったかと思うと、次の瞬間には目の前に長い金髪の美女が現れた。

「なっ!?」

 驚くマルクエンへ宙に浮かぶ美女は優しく微笑みかける。

「よくぞここまで辿り着きました。異世界からの勇者よ」

「あ、あなたは!?」

 マルクエンに問われると、美女はニコリと笑い返す。

「私はこの塔の女神。これより、あなた方に力を授けます」

「力をくれるってんなら、最初っから素直にここまで通してほしかったわね」

 ラミッタが悪態をつくと、女神は悲しそうな顔をする。

「それは出来ないのです。この塔は試練の塔です」

「なるほど、試練を突破しなくてはと言うことですか?」

 マルクエンが言うと、なんと女神は首を横に振って否定した。 

「いいえ、それよりも大事なことがありました」

「そ、それは……!?」

 試練よりも大事な事と聞いて、マルクエンは何だろうと考える。

「それは、何か二人の関係性がじれったいので、この際くっつけてやろうかと思いましてね」

 女神の言葉に静寂が流れる。マルクエンは理解が追いつかなく、言葉の意味を考えていた。

 ラミッタは顔を赤くしてプルプル震えながら女神に噛み付いて言う。

「なっ、なにいってるのかしらこの女神はぁ!!!!」

 声が裏返っていた。

「くっつけるとは、つまり……」

 マルクエンが思考の答えに辿り着きそうになるので、慌ててラミッタは妨害する。

「違う、違うから、それはこの女神の勘違い!! ほら、さっさと力を寄越(よこ)しなさい!!」

「強情ですね……。しかし、今は世界の危機。あなた方の事はその内、解決できると信じて力を授けましょう」

 女神が両腕を天に上げると、ラミッタは赤い光に、マルクエンは青い光に包まれた。

「私が力を与えるまでもなく、マルクエンさんは既に覚醒の片鱗を見せていましたが、これで真に覚醒した力が使えます」

「お、おぉ!?」

 マルクエンは体が青白く光り、力が(みなぎ)るのを感じている。

「そして、ラミッタさん。あなたは魔力で空を飛べるようになりました」

「空ぁ!?」

 マルクエンとラミッタは驚いて、同じ言葉を叫ぶ。