剣を仕舞い、安堵するマルクエン。奥にあった扉が左右に開き、階段が待っている。

「それじゃ、行きましょうか」

 スタスタと歩くラミッタ。先程まで偽物の自分がやらかした事を考えないようにしていた。

 お互い会話もなく階段を登ると、次の扉が目の前に現れる。

 マルクエンが押し開けると、現れたのは、室内とは到底思えないような景色だった。

「何だこれは!?」

 広がるのは、辺り一面の銀世界。雪原だ。

「どうなってんのよこれ……」

 扉の前でも寒さが身に染みる。この中を歩いていけと言うことなのだろうかと、マルクエンはため息を付いた。

「私は、寒いのは苦手なのだがな……」

「私だって嫌よ!!」

 ラミッタは軽装備なので余計に寒いだろう。マルクエンは身を案じる。

「その格好じゃ寒いだろうな。どうする? 引き返すか?」

「これぐらい、魔法で断熱するわ。平気よ」

 そう言って歩みを進めるラミッタ。マルクエンも後を付いていく。

 薄っすらと見える道を30分ぐらい歩いただろうか、一向にたどり着く様子はない。

「あっ、あれっ!?」

 ラミッタが突然声を出す。

「どうしたんだラミッタ?」

「断熱の魔法が出来ない……。っていうか、魔法が使えないわ!!」

「何だって!?」

 驚くマルクエン。

「流石は試練の塔って所かしらね?」

 ラミッタは強がるが、寒そうだ。

「大丈夫かラミッタ?」

「平気よ」

 そんな会話をしていると、天候が崩れ、吹雪き始めてきた。

「これは……。まずいな……」

 いよいよ引き返すかと思っていた矢先、小さな山小屋が視界に入る。

「ラミッタ!! あそこに小屋があるぞ!!」

「罠かもしれないわよ?」

「中には私が入って確認してみる。この寒さじゃ先に体がまいってしまう」

 マルクエンは小屋の扉に手を伸ばした。鍵は掛かっていない。

 一通り山小屋の確認をするが、罠らしいものはない。

「ラミッター!! 大丈夫そうだ!!」

 外で待つラミッタは山小屋に駆け込んで扉を閉めた。

「うー、さぶさぶさぶー……」

 中で震えるラミッタに、マルクエンは1枚だけあった毛布を掛けた。

「何のつもり?」

「いや、ちょうど毛布があったからな」

「アンタはどうするの?」

「ラミッタは毛布に(くる)まっていてくれ、私は良いものを見つけた」

 マルクエンが見つけたのは、水と食料。薪木だ。

「ねぇ、都合が良すぎないかしら?」

 疑いの目を向けるラミッタにマルクエンは答える。

「試練の塔だから、命を奪うってわけではないのだろう」

「そういうモンかしらねぇ……」

 マルクエンは火打ち石を使って木くずを燃やし、(たきぎ)に火を移した。

 赤く揺らめく炎と、熱が安心感を与えてくれる。

「後は私がやるわ、おぼっちゃまの騎士様に料理なんて……」

 そう言って立ち上がろうとするラミッタをマルクエンは制した。

「大丈夫だ!! 任せろ!!」

「任せろって……」

 火の近くで毛布に包まり凍えるラミッタは不安そうだ。

 マルクエンは鍋にナイフで細かく刻んだ干し肉と、にんにく、生姜。じゃがいもや大根、人参といった根菜を入れて、煮込み始めた。

 しばらくすると、いい匂いが山小屋の中に充満する。

「よし!! こんなもんか!!」

 マルクエンはスープを取り分けて、ラミッタに渡す。

「これって……」

「初めてラミッタの手料理を食べた時のスープに似ているな」

「やっぱり出来すぎよこんな展開!!」

「まぁ、良いじゃないか。食べよう」

 マルクエンはイタダキマスと言ってスープを口に運ぶ。ラミッタも同じ様に口をつけた。

「どうだ、味は? 中々じゃないか?」

「……、おいしい」

 ラミッタがボソッと言い、マルクエンは喜ぶ。

見様見真似(みようみまね)で覚えていたんだ」

「どんだけ私のこと見てるのよ、ド変態卑猥野郎」

 スープの優しい味と暖かさが寒い体に染み渡る。

「……、ありがと」

「ん? 何か言ったか?」

「べ、別に!!」

 ラミッタがふと、また呟く。

「アンタは寒くないの?」

「大丈夫だ!!」

「嘘ばっかり、震えているわよ」

 火のお陰で少しは暖かいが、まだ十分ではない。

「毛布、入る?」

 目を伏せながらラミッタが言う。大きめの毛布なので2人で入るには十分だろう。

「いや、えっと、嫌じゃないのかラミッタ?」

「何よ!! アンタこそ嫌なの!?」

「いや、嫌ではないが……」

 何故だか少しドキドキするマルクエン。

「雪中でこういう時は体で温め合うって、軍で習わなかったのかしら? これは……。そう!! 緊急事態だから!!」

「なら、仕方がないな。分かった」

 ラミッタの隣に座り、毛布に入ると、ラミッタの体温の温かさが伝わってくる。

「これで大丈夫か? ラミッタ」

「ん……」

 毛布で顔を隠すラミッタ。マルクエンはそうだと思い出した。

「しまった、こういう時寝たら死ぬんだったな!! まずいぞラミッタ!!」

「騒がしいわね……」

「何か寝ないようにしなくては……」

「話でもしてれば寝ないでしょ」

 それもそうかとマルクエンは何か話題を考える。

「そうだな、この世界に来て色々あったな」

「なにそれ、走馬灯みたいで縁起でもないわね」

「まぁ、そう言うな。それじゃこの世界に来る前の事でも話すか?」

「この世界に来る前……」